
「ふむ……貴方の回答はじつにシンプルなものですね。それはそれで構わないのでしょう。それも一つの"回答"なのですから」
果たしてこの男、質問者の回答をどう捉えているのだろう?少なくとも善悪では無い事は感じられる。
さて、今度は此方側の回答の番。先程の質問とはかけ離れたものに複雑な表情を見せる。

「……ここでその選択肢だけを言うと、少なくとも人間は都合良く解釈する生き物です。
ですので私も都合良く、お答え致しましょう」
一呼吸置いた先程とは違いそのまま話を続ける。

「私は医者としての業務の範囲内であれば、それを全う致します。最善を尽くします。その為であればどんな損害も厭わない。
…これで宜しいでしょうか?」
強弱を感じさせる事の無い声色で淡々と答えていく。
考えるような素振りを見せ、男はある事を思い出したように表情を曇らせ、続ける。

「……その人間が治療を求めているのであればの話ですが」
医者としての業務…つまりは怪我や病気で助けを求めているのであれば"それ"に該当するのだろう。それも治療を望むもの、と来た。あくまでもそれ以外は彼にとっての"患者"では無いのかもしれない。傍から見れば冷たいと思われるだろうが…それは治療を望まぬ人間、という者も見てきたからなのだろう。
余計かもしれないと感じたが、そのまま話を続ける事に決めたようだ。

「ですが…助けられる人間と言うのも限度がありますし、あくまでも"完治"ではなく"寛解"だと思ってください。それに私の専門外の病状や怪我で助けを求めるのであれば、専門の医師を紹介するまでしか私には役目はないと思っています。まぁ、結果として盥回しになるかもしれませんが……それはその時です」
常人の思う"医者"と言うものが崩れていく、とでも言うべきか。男の発言は正にそういったものに聞こえるだろう。
しかし、男の発言には一理あるとも言えてしまいそうな面がある。
病気が完治したと言われても、合併症や再発等のリスクはある。怪我だって後遺症の恐れがある。
ましてや専門外の病状を知識もないのに診るなんて無謀としか言いようがない。

「医者は万能の存在でもなければ神様でもない、人間なのです」
しばしの沈黙。しかしそれさえも苦として感じていないようだった。

「…結局の所、この回答はあまり当てになさらない方が良いと言う事です。私はいつ何時、掌を返すか分かりませんので」
ここまで答えておいて最終的には当てにするな、と…?
全くもって馬鹿げた回答だ、と言うのは男が一番思っている事なのかもしれない。

「…すみません、お気を悪くなさらず。どうやら私の居る世界の人間というものは、そういう方が大半を占めていまして」
確かに男は事前に言っていた。"都合良く答える"と。そうであるのならば、言葉通り答えたと言えるのだろう。
一先ずこの男を当てにすべきでは無い、そう思うことにした方がいいのかもしれない。