Chapter05-fin

記録者: Visitor (ENo. 31)
Version: 1 | 確定日時: 2026-01-14 04:00:00

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あなたの言葉が空間に染み込むように静かに落ちていく。
吸血鬼はそれを逃さず掬い上げ、ゆるく微笑む。

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「ええ。とても“あなたらしい答え”だわ」

白い部屋の境界がふっと揺らぐ。
輪郭が削れ、床と壁の境目が淡く溶け合っていく。
まるで視界が曇るように、世界そのものが退いていく。

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「愛はね、いつだって“行き先”を自分で決められるものじゃないわ。
 でも──あなたがどこを望むかで、
 その結末に“どんな色をつけるか”は変わっていくわ」

彼女の輪郭もわずかにぼやけてみえてくる。
けれど、その赤い瞳だけは最後まで揺るがずあなたを見ていた。

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「……ええ。これで終わり。
 “今回のあなた”と話すのは、これが最後ね」

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「此処での話なんて忘れてしまっても構わないわ。
 でもいつかあなたの“愛の答え”が変わったとき、また聞かせて?」

部屋はほとんど形を失い、
あとに残るのは薄い光と、彼女の声だけ。

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「さあ、戻りなさい。
 あなたの現実へ──あなたの愛が続く場所へ」


世界が静かに途切れる。
まばたきの合間に、白が完全に消え──
あなたは夢のように白の水面からゆっくりと浮上していった。

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Answer
一通りのあの部屋での任務を終え、またいつも通りの自室の風景が男の目に映っている様だ。
あの問い掛けのあった後だ。寝覚めはあまり良いものとは考え難いだろう。
あの部屋へと来訪する度に、男は感情と言うものと向き合う事になったのだが、結局の所理解の目を向けたとてそれは遠ざかるばかりであったと言った所の様だ。尤も、彼の中で感情と言うものは学べば学ぶ程、理解が遠ざかって行った事実が少なからずありそうだが。これまで見てきた人間達の"愛"……いや、それを騙る欲望と思しきものを持っていた存在を、男は思い返す。
寄生するかの如く、生気を吸い尽くすかの如く人間に寄り付き、ある時捨て去るかの様に寄生先の人間の前から姿を消す存在。そしてそれはまた次の獲物を求めるのだろう。
何人もの人間と関係を持ち、子を設けた存在。そこは家族すらも完成させている様に見えなかった。
子は奇跡の確率でしか望めぬ身体だと言うことを知っても尚、たった一人の伴侶と添い遂げる覚悟を決めた存在。どれだけ反対されても、それさえも押し切る程の繋がり。
近しき存在であろうと、それは理解する事の出来ぬ領域。それが……
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「……あ……ア……ァ?」

"それ"を口にする事さえも出来なかった。
これまで"手に入れた"とも"与えてきた"とも言い難い……否、確実に無いとまで断言出来る領域にまであるのだろう。
しかしそれで良いのだと思っていた。そんな物に真実なんて見出せやしない。どんな"愛"と呼ばれるモノを見たとて、理解に辿り着く事は無かったからだ。
恐らくそれは男にとって、永遠に理解どころか自覚する事のないモノなのかもしれない。
それは自身に眠る感情であったとしても。