一通りのあの部屋での任務を終え、またいつも通りの自室の風景が男の目に映っている様だ。
あの問い掛けのあった後だ。寝覚めはあまり良いものとは考え難いだろう。
あの部屋へと来訪する度に、男は感情と言うものと向き合う事になったのだが、結局の所理解の目を向けたとてそれは遠ざかるばかりであったと言った所の様だ。尤も、彼の中で感情と言うものは学べば学ぶ程、理解が遠ざかって行った事実が少なからずありそうだが。これまで見てきた人間達の"愛"……いや、それを騙る欲望と思しきものを持っていた存在を、男は思い返す。
寄生するかの如く、生気を吸い尽くすかの如く人間に寄り付き、ある時捨て去るかの様に寄生先の人間の前から姿を消す存在。そしてそれはまた次の獲物を求めるのだろう。
何人もの人間と関係を持ち、子を設けた存在。そこは家族すらも完成させている様に見えなかった。
子は奇跡の確率でしか望めぬ身体だと言うことを知っても尚、たった一人の伴侶と添い遂げる覚悟を決めた存在。どれだけ反対されても、それさえも押し切る程の繋がり。
近しき存在であろうと、それは理解する事の出来ぬ領域。それが……

「……あ……ア……ァ?」
"それ"を口にする事さえも出来なかった。
これまで"手に入れた"とも"与えてきた"とも言い難い……否、確実に無いとまで断言出来る領域にまであるのだろう。
しかしそれで良いのだと思っていた。そんな物に真実なんて見出せやしない。どんな"愛"と呼ばれるモノを見たとて、理解に辿り着く事は無かったからだ。
恐らくそれは男にとって、永遠に理解どころか自覚する事のないモノなのかもしれない。
それは自身に眠る感情であったとしても。