開幕早々男は質問者の問い掛けに対し、大きな溜息を吐く姿が見えるだろう。
恐れていた時と言うものは、いつの世も唐突に訪れるものなのかもしれない。どうせいつかは問われる事があるかもしれないと覚悟はあったのだろうが……やはり彼には問い掛けに挙げられた"それ"に対して、何一つ理解する事は不可能に近いと感じている様だ。
答える価値がないのなら目を閉じろと言われて目を閉じるも、中々戻れる気配は一向に見えず、沈黙は流れ続けているのかもしれない。時計も無ければ外すらも見えない場であるにも関わらず、時間が過ぎている感覚が何故かある様に感じられただろう。
質問者はああ言っていた様だが、どうやら彼自身には本当の所、拒否権と言うものが無いのかもしれない。そもそも、目の前の存在の言った事が間違いでなくとも、真実だと鵜呑みにするというのも、危ういものだろう。
今回、質問者に出会う事というのが初めてであろうとそうでなかろうと、男にとっては一切眼中に無いと言った所だろう。彼には、今この理解に苦しむ問い掛けの回答をしなくてはならない状況下に置かれていると言う現実とどう向き合うか……その事ばかりが頭を張り巡らせていた様だ。いや……これは夢なのだろうか?
従来よりも重く感じる口を開き、回答を始めるようだ。とはいえ今回もまた、疑問が先となりそうだが。

「……人間の持つものは、本当に貴方の言う"それ"と同義だと?"それ"の名を騙る感情……いえ、それは最早人間にとって都合の良い概念……"欲望"と言うものなのでは?」
今まで感じる事の無かった違和感と言うものが、男の身に起きている様だった。

「"それ"と言うのは、私が永遠に理解し得ないもの……感情の一つなのでしょう。
……これ以上は何も話す事等無いのでは?」
最早今までの様に綺麗事を口にする余裕すらも、今の彼には残されていない様だった。
今まで感情面から目を背けた回答をした罰だと言うのだろうか?それ程感情に向き合う事をしなかった彼の選択肢は間違いだったとでも言うのだろうか?
その後男が次の問い掛けまで、口を開くことは無かった。そのまま沈黙が流れ続けているのだろう。
結局、男は現在まで"愛"どころか"感情"自体を理解出来る事は無かったとも言えるのかもしれない。
さて、この男が潰れるのが先であるのか、愛について彼なりの明確な回答を見い出せる程、愛を理解出来るようになる事が先か……その答えはいつか分かるのかもしれない。