"余白"や"境界"と言ったものに縁があるからと言って、本当に質問者がこうも無闇に巻き込まれるものなのだろうか?そうであるのならば、それに縁の無い男にとっては魔術というものは、物によっては難儀な気がしてならないと感じられる様だ。
男は魔術に縁がないのは勿論、それどころか一般市民と何ら変わりは無いものだろう。
その上この問い掛けも、この部屋の創造主や監視者本人に直接聞かなければ明確な回答はないと考えるべきものなのかもしれない。

「……恐らく、これも確定的な回答と言うものは存在していないのかと思われます」
理由を予想するのであれば、様々なものが挙げられるだろう。それが明確な正解なのかは不明のままであるが。

「言ってしまえば"誰でも良かった"と言うものが一つの理由として存在していると考えられますが」
本当にこの部屋が、それを操作する存在が人を選んでいるのであれば、多少なりとも感情が混じるものではないか?それこそ男の理解の範疇に無いものだろう。しかしそうでは無い可能性がありそうだと考えられる様だ。
本来ならば男と似たような存在等、この世にはいくらでもいるだろう。それこそ人間以外も対象であれば尚更だ。そこから選ぶのであれば、まず弾かれる存在となると男自身が一番知っている。それは彼自身が己を"平凡"であると感じているから……なのかもしれない。

「それとも人間は皆、何かと過去と言うものを持つとお考えになっていらっしゃるのでしょうか?それと言うのは私も例外ではない……とお考えなのでしょうかね?」
それは彼の持つ"平凡"を引き剥がす存在なのか?それとも彼が"平凡"である事を望む存在なのか?
どちらにせよ、男が自らの過去を語る事は今後も無いのかもしれない。今までの問い掛けで、真実が僅かながら見えたと言うのであれば、話は別となりそうだが。
ここでまた新たな存在が浮上していると言っても良いだろう。まずはこの部屋を造ったと思わしき創造主、此処へと様々な種族を呼び寄せた選定者、そしてこの部屋での質問者と回答者の問答を監視する監視者……恐らくそれら全てが同一人物とは限らないだろう。
しかしそれらが、この男の深層心理全てを見抜こうと言うのだろうか?ならば男の行動は一つ、その存在の好奇心に満ちた目から真実と言うものから遠ざけるのだろう。
"それ"を呼び覚まさない為、起動させない為にも……なのかもしれない。