Chapter03-05

記録者: Visitor (ENo. 31)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-21 04:39:12

クリックで開閉
あなたの言葉に黙って頷きながら、
思考を深めるように髪を弄る手の動きは止まっていた。

icon
「……価値、なんて偉そうな言葉を使ったけどさ」

icon
「結局、自分がその生き方で満足できるかどうか
 みたいな話、な気もしてくるね」

短く言葉を切りながら、息を吐く。
沈黙は、ただ心の中を整理する時間のようだった。

icon
どうすれば、満足って思えるんだろうね

icon
「もちろん、簡単に“ああ、これで満足!”って思えれば楽なんだけど……
 現実はさ、どんどん次が出てくるし、思い描く理想と現実の間に隙間があって……」

小さく肩をすくめ、思い出したかのようにまた手が髪を弄った。

icon
もうこれでいいって思える瞬間……、
 クロは、経験ある?……どうすれば自分が満足できるかって、分かる?」


──あなたにとって“満足”とは何だと思いますか?

sample

icon
「……“満足”って多分、別にゴールじゃないんだよね」

icon
「結局“ああ、今ここで自分のやりたいことできてるな”って瞬間のこと……なのかも。
 誰かに褒められたり、認められたりすることだけじゃなくて、
 ただ自分の心が納得してるっていうか」

髪を指先で絡めた手をそっと下ろし、視線を落とす。

icon
「だから、ウチにとっての満足って、“ずっと続くもの”じゃなくて、
 小さくて短いけど、自分の心にちょっと灯がともる瞬間のこと……かな、と思う。
 其れを積み重ねられる可能性が高い行為を、価値、と呼べるのかもなぁ……」

軽く息をつき、椅子にもたれて肩の力を抜く。
ふ、と視線があなたに戻り、問いかけるように目が揺れる。

icon
「クロはさ……そんな瞬間、ある?
 自分の中で、これでいいって思える瞬間って、どうやったら掴めると思う?」

Answer
要するに質問者の言う満足とは自らの心を安心させられるもの、というのだろうか……?最後まで結局、質問者の思考や価値観は最後まで理解する事はできないと感じたのだろう。
男はいつもの如く一呼吸置き、回答に入る様だ。
icon
「……ささやかな日常も勿論の事、その中でもいつもよりも"良い"と感じられた時……例えば臨時の収入や思わぬ縁……もしくは違えた筈の縁の再構築等でしょうか?
後は罪を犯した者達が罪滅ぼしの為に善行を積む……それらが当てはまるのではないでしょうか?」

相も変わらず綺麗事を並べる事だけはどの質問者に対しても変わらない様だ。しかし最後の例えは違和感があるように見える。罪滅ぼしが満足?疑問に持つ人間もいるのではないか?しかし次の発言でその意味が明らかとなるだろう。
icon
「……あぁ、すみません。最後の一つは"自己満足"でしたね。これにはあなたの言う"満足"には該当なさらないのでしょう。とはいえ、もしかすると……いえ、これは言う必要は無いのでしょう」

自分が納得すれば良い、自分に出来る善行を進んで行う……それ即ち自己満足だと言うのだろうか?
ただ一つ言えることは結局の所、罪滅ぼしでの善行で罪が払拭されると言う訳ではない、という事だろう。
icon
「人間である限り、この世に生を受けている限りは完全な"それ"は永遠に訪れる事は無いと思っております」

喉元過ぎれば何とやら……と言う事だろう。人間は"満足"を経験するとその都度喜び等の感情を見せる。しかし時間が経てばまるでそんな事は無かったかのようにその時の事を"過去"として見てしまう事が大半、と言ったところだろう。思い出等として記憶は残せるが、感情を完全に再現出来る程覚えていられる、とは言い難い。
icon
「最大の"満足"が来たと人生で錯覚してしまう時は幾度となく訪れますが、そんなものは一時的なもの。その瞬間を過ぎれば、また新たに"満足"を探さなくてはならない……それの繰り返しです」

一時的な"満足"は経験できたとしても、それは永久では無いというのは人間全ての行動で分かるのではないか?人間は何であってもそれから更に上を目指し、求める事が多い。それは自身であれ他者であれだろう。
icon
「人間はそれに辿り着く時が来るのかと問われれば……無いことは無いと。恐らくそれは……それこそが」

そのまま男は言葉を続けた。表情こそ変わらずとも、その声色は温度というものが無いようにも感じられた。
icon
「"涅槃"」

辿り着いた人間はいたのだろうか?少なくとも辿り着いた人間、と言うのを見ることは不可能に近しいものだと思われるが。