Chapter03-03

記録者: Visitor (ENo. 31)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-21 04:39:12

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「……そっか」

一言だけをぽつりと落とし、その後の言葉を探すように目が泳ぐ。
何かを言えば軽くなってしまうし、黙れば重くなる。
その中間を彷徨うような視線の動きだった。

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「いや、なんかあんま気の利いた事言えないや。
 テキトーな相槌を簡単に言うのは失礼っていうかさ……」

女は椅子にもたれかかり、髪を指で弄りながらぼやくように言葉を零す。
……指先で“間”を誤魔化しているようだった。

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「……じゃあ、さ、クロ。
 クロって誰かに期待されたりすることって、ある?」

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……誰かに期待されてるって思うの、疲れない?


──あなたは、“期待”に対してどのような感情を抱きますか?


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「ウチさ、親とか先生とか、あと周りの人とか……
 期待されるとさ、なんかこう……自分のペースで動けなくなる気がして」

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「でもさ、期待されるのって悪いことじゃないのも分かるんだよね。
 褒められたり、認められるのって、ちょっと嬉しいし……」

言葉はゆっくりと紡がれていくなか、指先だけが落ち着きなく動く。
笑っているような、笑っていないような声だった。

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「けど、期待ってさ、“応えられなかった時の怖さ”までセット販売なんだよね。
 おまけに“努力不足に見られちゃうリスク”付き」

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「嬉しいのに疲れる。
 ありがたいのになんか苦い。
 クロはそういうの、ない?」

Answer
これに関しては最早……とまで考える回答が確かにあるらしい。それ程男にとって疑問であり、人間の思考や価値観の中に穿たれてしまった"孔"……所謂欠落したものを、男の目は見過ごすという行為を選択しなかった……いや、そんな選択肢すらも存在していないのだろう。
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「そもそも勝手に期待して予想と反した結果になれば"裏切られた"等と仰る人間の方に、少々問題が生じているのではないかと思いますが……貴方が別に期待して欲しいと発言していないのであれば尚更です」

他者の行動が予想外だからと言って、情緒が簡単に不安定になるのであれば、人間は人間に期待を掛けてはいけないのではないか?勝手に期待の眼差しを向けておいて、予想と違うだけで『裏切られた』『悲しい』『失望した』と期待を掛けていた人間に対し、攻撃的になる人間というのも否定はできない。何故人間はそう言った思考になるのか……疑問である。
しかしそれが結果を残せる程であれば褒められ、認められ……質問者の様にそれが嬉しいと感じる人間も居るのはこの通りだろう。……どちらにせよ、男にとっては未知の領域だ。
他者が期待を寄せる事となるきっかけがその人間が良い結果を残した、と言うのが大半なのだろうが人間はその成功をいつまでも維持する事は不可能だろう。にも関わらず同じ様に他者は期待を寄せる。それが目の前にいる質問者の様に悩みの種になってしまっている、とも知らずに。
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「貴方が期待に応える事が出来ずに結果を残せなかったからと言って、期待を寄せていた人間の全てが貴方の結果を責める権利があると、お考えなのでしょうかね?その人間達だって別の人間に期待されたとて、結果を残せなかった事だってあるのではないのでしょうか?」

多くの場合、人間は期待されずに生きてきた等という訳では無いのだろう。むしろ他者に期待されていたから他者に期待する、と言う構図が出来上がるのだろう。期待という鎖は人から人を無意識に縛り付ける。今こうして問い掛けをしている質問者でさえも無自覚に他者に期待を掛けて縛っている可能性は無きにしも非ずだ。それはこの男も例外では無い……筈だ。
これは完全に"自らの事を棚に上げる"と言う人間の都合のいい要素である。それというのは永遠にどこかで連鎖しているものなのかもしれない。
しかしこの男の辞書に本当に期待、と言う単語自体があるのだろうか……?真相は闇の中、と言った所なのだろう。