目の前の回答者の意図も目的も若者特有の口調も、いまいち分からない。いきなりクロと言われてもどうしろと言うのだろう。とはいえ名を名乗らずに済むのは有難い。自らの姿も彼女曰くぼやけているらしいので、本当にそうであるのならば好都合。それにまたこの真っ白な部屋ときた。となれば己に与えられた役目は一つなのだろう。

「お気になさらず。私もつまらないお話しかできませんので」
基本的に感情で動く人間が大半を占める世の中己の様な人間の話を聞きたい、相談に乗ってほしい等と言う愚か者は存在しないのではないかと、この場を知る前までは思っていた。世の人間は圧倒的に"解決"よりも"共感"を望む者が多い。にも関わらず、相手は機械等の"モノ"ではなく未だに"生身の人間"を望んでいる。おかしな話だろう。"モノ"であろうと"生身の人間"であろうと嘘の時は嘘、真実の時は真実ではないのか。とは言え、肝心の質問者はどちらでも良さそうに感じられるが。
さて、そろそろ回答に入るべきだろう。今までの回答の傾向から男は今回も彼自身の回答を出していないことが多いが今回は果たしてどうなる事やら。

「生きる理由なんて何でもよろしいのでは?それこそあろうと無かろうと。
ですがあるほうが良いとお考えであるならば、これから探していくのであれば現段階で見つかっていなくとも、問題は無いのではないのでしょうか?そこまで事前に見つけている事が本当に大事とでも?その理由をある時手放さなくてはならない時が来ない等とは限りませんのに」
生きる理由と言うものがなんでも良いのであれば、世間もそこまで他人の生きる理由や目標等を気にするものでは無い。いや世間であれ他者であれ、口出しする資格はそもそもないのだが。それ以上に周りに流されるという事の方が場合によっては問題になるのではないのだろうか?

「周りに流されるのも自身が見えなくなる原因の一つではないかと。他者は他者として、切り離して考える事も時には必要かと思われます」
他者の生きる理由がどれだけ志が強かろうと、それはそれだ。自らがそれに合わせることもする必要は無いし、流される必要もない。
必要なのは自らを見失わない事では無いのだろうか?

「別にこの場合、私の回答は意味を成さないものなのではないかと思っております。私の生きる意味が貴方に何の価値も解決も与える程、素晴らしいものでは無いと思いますので…。第一、人間はそんなに簡単に動くと思えませんし」
他者の生きる意味から、何かを得るとは男は到底思っていない様だ。そこから似たような理由にした所でそれは他者の"模倣"だと解釈しているのだろう。
ましてやそれを聞いたからと言って人間全てがそう簡単に動く訳が無い。例えそこから理由探しに動いたとしても、その程度の動機なのであれば明確な理由ではないのだろうかと感じる。
考えを張り巡らせた結果、他者と似た考えになってしまったという考えと、初めから他者の考えを模倣すると考えるのとでは明らかな"差"があると言う事を感じているのだろう。