Chapter02-01

記録者: Visitor (ENo. 31)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

クリックで開閉
あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたが以前来たあの部屋と、まったく同じに見える。
壁に触れても感触は無く、すり抜ける事も出来なければ
もうひとつの椅子を見る事も叶わない。

──あなたが椅子に座れば、部屋は拡張されたように感じる。
視界の向こうに椅子があり、そこに誰かが座っている。

icon
「あれ?」

icon
「あはっ、すごい。君っていつの間に居たの?
 ちっとも気付かなかった!だってさっきまで誰も居なかった、
 君の音はひとつも聴こえて居なかった!きっと何かが君を導いたんだね」


奇抜な色彩を纏った少年が、にこやかに楽しげにあなたを見ている。
足をぶらぶらと揺らしながら、まるで軽やかな旋律そのもののようだった。
胸元に下げた横笛が、少年の小さな動きに合わせて微かに揺れ、
そのたび、金属が擦れ合う透明な響きが空気を震わせる。

icon
「ね、僕さ、訊いてみたい事があるんだけど、いい?
 きっとこれは風の導き、新しい楽章の予感!
 今まで聞いたことのない音に出会えそうな気がするんだ!」


少年はあなたに体を傾け、目を輝かせる。
質問を投げかける瞬間でさえ、ひとつの“旋律”を紡ぐように。

icon
「──君はさ、大人になるってどういうことだと思う?


──あなたは“大人”とは何だと思いますか?

sample

icon
「僕はね、毎日新しい音を探してる。
 繰り返しばっかりの退屈な道ばっかり歩いてたら、その曲は死んじゃうでしょう?」

空中に弧を描くように指先を動かす。
まるで目に見えない五線譜に、音を刻むみたいに。

その仕草に合わせて、笛が揺れて微かに音を鳴らしたような気がする。
それが空耳なのかどうか、判断できない。

icon
「僕から見たら大人って、死んだ曲をずっと流してる人たちだ。
 一体何が楽しくてそんなことをしてるのか、僕には全然分かんない!

 君はどう思う?大人ってもしかして僕が知らないだけでもっと楽しいものなのかな?」

Answer
以前と同じように用意されていた椅子に腰かける。再度、この場に訪れる事になろうとは。
icon
「……」

今回の質問者は見た目は人間の子供の様だ。しかし、長命種というものが異世界にいる限り目の前にいる人物も、何をどう話すかによっては本当に子供かは信用する事はできない。
それにしても"大人は死んだ曲を流し続けている"……繰り返しの行動、いつも通りの日常等というものがそれに該当するのだろう。それを音楽として例えている様だ。正直男にとっては理解不能。何を言っているか分からなかった。
しかしその解釈は子供ならではとはいえ、いささか視野が狭く偏見が過ぎると見るべきか、ある種で間違いではないと言うべきか……少なくとも少年は大人にあまり良い印象を持っていない可能性がありそうだ。
本来大人であればこういった発言をされると相手が子供とはいえ、あまりいい気はしないだろう。
icon
「……子供の発想と言うのは、いつの世もお可愛らしいものですね。この歳になっても未だに"それ"から学びを得られるとは、思っても見ませんでした」

穏やかな表情で冷ややかに皮肉を吐く。流石に偏見の過ぎる発言をされて、黙っていられる程大人ではなかったようだ。しかし声を荒げる事も極端に不機嫌さを見せることは容易にする事は無い。
icon
「……最も、子供であれ大人であれ耳障り、もしくは洗脳を促す曲を流す輩よりかは、遥かにまともであるのではないかと思いますが」

質問者が曲で例えたからか、男もその例えで返す。
耳障りや洗脳を促すと言うのは罪に問われる所業を犯した者……と言う例えの様だ。しかしそういった存在は最早曲ではなく、ノイズの様なものを流しているのかもしれないが。そうであるのならば死んだ曲の方が幾分マシだろうと思う者もいるのだろう。質問者はどう思っているのか……正直男にとってはどうでも良さそうだが。
男は一呼吸置き、回答をする。
icon
「……さて、では回答に入りましょうか。"大人"と言うのは……責任感を強く持ち、意見が対立するようであれば妥協も視野に入れ、弱きを守り受けとめる、敵対するものにも怖気付く事も逃げる事もせず、正面から立ち向かう。ですがその反面嘘つきです。ですがそれは他人の為の優しい嘘。残酷な真実を知らせない為に、嫌でも言わなければいけないのです。
……まぁ法を犯せば完全に赦されなくなってしまうと言うのは大人の辛い所です。ですがそれさえも覚悟を決めることが出来た存在……それこそが"大人"かと思われます」

穏やかな表情のまま話を終える。その表情を崩すこと無く質問者を見つめていた。
しかし少年は言っていた。"大人は死んだ曲を繰り返し流し続けている"と。
そうなれば質問者がこの回答を信用するはずがないだろう。
男は本性を見せるかの如く穏やかな表情を顔から消し去り、冷たい目を向けたまま言う予定のなかった続きを話す。
icon
「貴方の様な子供、と言うのを少し侮り過ぎたかもしれませんね。貴方は大人と言われている存在をよく見ていらっしゃっているようですから、こんなものがただの戯言だと即座に見抜くのでありましょう」

icon
「まぁ、こんな気味の悪い綺麗事を並べて真に受ける人間なんて、居る等とは微塵も思ってはおりませんが」

男は脚を組み替え、さらに続ける。
icon
「結局の所"大人""子供"なんてものは、人間が決めた都合の良いものだとしかないと思っております」

都合の良いもの、それは以前も男が口にしていた言葉だ。人間自体がそうであるように、こういった答えが曖昧な定義のものも男の中では同義として扱っているのだろう。
icon
「外見面で区別するのであればたしかに典型的な違いはございます。但しこれには例外と言うものが付き物です。成長スピードで見れば皆が皆、同じ速さで成長しているはずがありません。当然、個人差というものがございます」

外見での区別として見れば違いは基本的にわかりやすい。しかしそれは絶対的ではない。大人びた子供もいれば子供のような成人もいるだろう。それは遺伝や病気によっても左右されるものでもある。
誰一人、明確な境界線を引けるとは到底思えないだろう。
icon
「……まぁ、あなたが仰っているのは恐らく精神面でなのでしょうが。そうだとしても人間の回答なんて様々でしょう。それも極めて主観的であり、それらを即座に信用しても良いものというわけでは無い。回答は人類と同じ数存在している様なもの……ならばあまりにも多すぎますからね」

更に続ける。
icon
「ましてや、それを答えた者が必ずしも"人間の模範"となれている人間なのか……それさえも不明瞭。いくら善人を気取ろうと、発言と行動が伴っていなければ回答は信用に値しません」

icon
「そもそも"大人""子供"というものの回答が曖昧な時点で"人間の模範"も本来は存在していないのかもしれませんね」

この問い掛けの真の回答……いや、解答と言うもの等どこにも存在してないのだろう。あるのは誰かが、世界が敷いた都合のいいレールのみ……そこからなるべく外れる事の無き様に、人間達は走るしか道は無いのかもしれない。