万年紀【1.先史時代と“強い鷹”】 | 記録詳細

万年紀【1.先史時代と“強い鷹”】

記録者: アルンケティル (ENo. 16)
公開日: 2025-10-05

【大賢者の万年紀】
【1.先史時代と“強い鷹”】

 寒いのが嫌い。
 あの孤独とひもじさを思い出すから。

 人に庇われて死なれるのが嫌い。
 定命の人間たちは、僕の後ろに居れば良いのさ。

 ⬛︎⬛︎⬛︎と呼ばれるのが嫌い。
 自分は人間になんてなれないこと、
 誰よりも理解しているさ。


 嫌い、嫌い、嫌い、嫌い。
 それでも、この世界のことは、嫌いじゃない。



 大賢者は万の時を生きる。
 独り、世界に取り残されながら。

「僕は、永遠の旅人さ」

 大人になることを許されぬまま、
 気の遠くなるような年月を。

埋め込み画像

 始まりは遠い昔。
 太陽翳る極北の大地に、その少年は捨てられて。
 誰もが生きるのに手一杯なのに、
 とある男性はそんな少年を拾ってくれた。

「“強い鷹”なんて呼ばれてたかな。
 動物を狩る、偉大なる戦士」

 “強い鷹”は少年を拾い、育てたけれど。
 少年の成長はある時期から止まった。
 “強い鷹”が幾ら食料を分け与えても、
 大きくなることはなくなって。

「……気味悪がられて、当然だ」

 ある日、少年は
 吹雪に巻き込まれ行方不明になった。
 行方不明のまま数日が過ぎて、
 “強い鷹”は少年の生存を諦めた。

 しかし少年は
 傷ひとつなく元気そうに戻ってきて、
 周りは少年を奇異の目で見るようになって。

「だから、義父さんは────」

 “強い鷹”は、もう少年を庇護しなくなった。
 18歳にもなったはずなのに小さいまんまで、
 吹雪に巻き込まれても
 衰弱の様子すら見せずに帰還した彼を、
 食べ物も与えずに外に追い出した。

 ⬛︎⬛︎⬛︎と呼ばれた。
 心に深く刻まれた傷。


 死なぬのならば、お前を養う必要はない。
 厳しい極北の大地に、余分な食糧なんてない。


 そして放り出されても寒く苦しいだけで、
 少年は死ぬことが出来なかった。
 その後に“強い鷹”の所に帰ろうとしても、
 もうそこに居場所はなかった。

 厳しい厳しい極北の地なれば。
 群れから外れた者は、
 二度と群れには戻れない。

「──僕は、人とは違うんだ」

 残酷なまでに理解したのは、
 万年紀のはじまり、先史時代。

 心に刻み込まれて癒えることのない、
 原初の記憶。

埋め込み画像