万年紀【6.死ねずの賢者はそして今】 | 記録詳細

万年紀【6.死ねずの賢者はそして今】

記録者: アルンケティル (ENo. 16)
公開日: 2025-10-22

【6.死ねずの賢者はそして今】

 古王国ノイフォスが滅び、
 8つの国が立ち上がることで
 古王国時代は終わりを告げた。

 西の大陸の古王国カルジアもなくなって、
 大陸国家シエランディアという国が
 新たに生まれた。

「古王国が滅びて以降の時代を、
 僕らは“現代”と呼んでいるんだ」

「魔導王国、帝国、聖王国、獣国…………。
 この頃に生まれた様々な国のほとんどは、
 今もまだ続いている」

「帝国は滅んだけど…………
 あれはちょっと自業自得だから擁護しません」

 少し前にひとつ、北で大きな戦いがあった。
 小さな火花から始まったそれは、
 火花大戦と呼ばれている。

 古王国ノイフォスによる
 大陸統一に憧れた帝国の“覇王”が、
 周辺諸国を攻め滅ぼそうとして、
 逆に自国を滅ぼした話。

 この戦でも数多の英雄が生まれたが、
 古王国時代の争いよりは、
 まだ穏やかだったのだろう。

「……かの“覇王”は、戦神に憑かれていた」

「“覇王”の野望に戦神ゼウデラが応え、
 北大陸に巨大な戦禍が撒き散らされて」

「その戦神の本体は
 西の大陸の英雄たちに封じられたから、
 “覇王”は目的を果たせずに終わったんだ。
 西の人たちは、
 北の争いを知らなかったけどね」

「……小さな蝶の羽ばたきが
 大きな嵐を呼び得るように。
 この世の全ての物事は、繋がっていたり、ね」

 西にも内戦が起きていたが、
 戦神の封印から数年後、
 新たな英雄によって戦は終わり、
 西の大陸国家は生まれ変わった。

 死ねずの賢者はそれらを見守るだけ。
 世界の危機にでもならぬ限りは手を出さず、
 人間たちの行く先を観測しているだけなのだ。

「──それが、僕の在り方だから」

 これからも、見守り続けるのだろう。
 誰にも知られず、歴史の裏側で、
 万の時を刻みつつ生きていながらも。
 死ぬことも出来ぬこの命で、永遠に、永遠に。

 過去の痛みや悲しみを、完全に癒すことは出来ずとも。
 今はその隣に、優しき黄金が在るなれば。

「……孤独じゃないなら、歩いていけるさ」

 ね、サンセール。

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【アルンケティルの万年紀 完】