魔女は、ある町に迎え入れられていた…。
「おっ!???ハグちゃんじゃないか!!久しぶりだなぁ、ガハハハ!!
ほらっ、遠慮せず入んなって!!町のみんなも喜ぶぞ~!!!
俺ぁこれから山に行ってくるからよ!夜になったら会おうな!!
はっは~!今日は良い日だ!ハグちゃんが帰ってきたもんな~!!」
「あらハグちゃん!!元気だった?あれから心配してたのよ~!
よ~し、お姉さん、ハグちゃんの大好きなシュークリーム作ってあげるから待っててね!」
「ま~あハグちゃんや、しばらく見ないうちにべっぴんさんになったのぅ!
ますます男衆もメロメロにしそうじゃわい!ほっほっほ!」
「ハグくんか!久しぶりだね、また勉強しにきたのかい?先生はいつでも歓迎だ!」
「ハグちゃん…!…爺ちゃんはね、あのあと死んじゃったんだ。
でもハグちゃんの魔法で痛みを取ってくれてた時の顔、今でも覚えてる。
…爺ちゃんはとても幸せな気持ちで旅立って行ったよ。だから…ありがとうね。」
「ハグちゃんじゃなーイ?前のふんわりヘアーも可愛かったケド、
今のサラサラヘアーもス・テ・キ♡どぉ?アタシがも~~~っと可愛くしてあげるわヨ?」
「…はぐ……また会えて嬉しい…………ふひひっ………。………?」
「……?や……やっぱりハグじゃん!どうしたんだお前…!?
…そ、そりゃ、前から女の子の服は似合ってたけどよ…。」
「ハグおねえちゃ~ん!!」「ちがうよ、ハグおねえちゃんはおにいちゃんだよ?」
「「またゆめのふわふわのまほう、みせて~!!」」
「ハグ、戻ってきたんだ。…待ってたよ。おかえり。
覚えてる?月の綺麗な夜に二人で歌って、夢を語り合ったこと…
キミは…そうだね、世界の崩壊を止めるんだよね……
とても…大変だって頭でわかっても……ボクでは、キミの傷を癒しきれないだろう…
…違う!だから、ボクは、キミの為に歌を作ったんだ!
キミが受けた傷を治せるように…ボクも世界を救う助けになるんだ、って…!」
「…夜に聞かせるね。今日もあの日みたいな月が出るみたいだからさ。」
「おかえりの抱擁、しよう?キミ、好きだったろ?
「……しないの?
……!!
…ハグ、その傷、見えてるよ…?キミの幻影魔法で隠さなくていいのかい?」
「…………っ!!!!!!」
魔女は青年の頬をはたく。
「??!!…………!!!!
ご、ごめんよ!!気に障ったんだね!?……?…ほ、ほんとうにハグなんだよね…?」
「……ええ。はじめまして、わたくしはハグ。
あなたが知っているハグというのは…もう一人のわたくしとやら、なのかしら?」
「………え?」
「わたくし、綺麗な月の夜というのは…あまり好きではありませんの。
…ええ、思い出すのは嫌なことばかり…。
蝿のように散る戦闘機を潜り抜けた夜、
真っ白に吹き上がる吹雪に凍えた夜、
魔力が切れたまま風を頼りに飛び続けた夜、
欲深な不死者に生きた身体を狙われた夜、
恐ろしい獣の森で息を殺した夜、
下劣な男に、………っ!!!
そして………………あの日の夜。」
「もう一人のわたくしは、長い間この町にいたようですわね。
ええ、彼も同じ目的があるはずなのに、ずいぶん楽しそうに過ごしましたのね。」
「許せませんわ。」
「わたくしが、もがいて、苦しんで、旅を続けているというのに、
もう一人のわたくしは遊んで、惚けて、道草を食べてばかりいるというの!!??」
「だから、決めました。
あなたにも、この町にも、彼へ伝言をお願いしますわ。」
「もう、帰る場所はない、と。」
「あなたも見つけて殺す、と。」
こうして、町一つ消し飛ばした魔女に「嵐の魔女」と呼び名が付いた。
魔女がこの世界を去るまでに、いくつもの村も都市も、滅ぼされてしまった…。
魔女はもう一人の自分に対し、先回りして異世界を荒らし、
彼が生き残った人たちに殺されるのを望んでいる。