魔女は地上に。風に背を押されて。パラソルが草花を撫でる。
ここは大陸全土に広がる広大な森。
茂る枝葉の多さのわりに、森は明るく感じる。緑と木漏れ日の黄金比。
足元には草花が、ワルツを踊るように交わっている。
蝶は戯れ、蜂は働き、ひょこひょこと跳ねるウサギの白が見え隠れする。
生き物たちの循環で周る、美しい森。
遠くには、根元を一回りするだけで一国を埋め尽くすほどのとてつもなく巨大な樹が佇む。
雲の高さで枝分かれが始まり、はるか遠くの枝葉の隙間からは常に星空が覗く。
「…少し酸っぱいですわね。でも自然の割には上々でしょう。」
魔女は緑色のりんごを齧りながら歩いていた。
森の恵みを拾いながら、世界転移でほとんど使い果たした魔力を蓄えなおす。
しかし、飛べるまで回復したとしても、この世界では無意味なのだろう。
ある世界で見つけた、異世界渡航者の残した文書…
―――白と銀、命の色に輝かしき大樹ユーラシール。エルフの栄えた世界。
―――豊富な魔力を持つことから、別世界との交易路ともなる世界。
しかし忘れることなかれ。この世界で気を付けることは2つ。
ひとつ、住民の許可なくして飛行してはならぬ。
空に張り巡らされた大樹の枝から『真ナルモノ』が地上を見ている。
彼らに見つかってしまえば、光に包まれ、大樹の上へ連れ去られるであろう。
ふたつ、『破滅の魔女』に気をつけよ。
一万年前の『破滅の大火』を引き起こし
エルフ族の住処を奪い、大樹に抉るような穴をあけ、人間族を絶滅寸前へ追いやった大罪人。
彼女の名はエルフの間でも禁句。今でも時々、目撃情報により追撃隊が出動することもあるほど。
魔女本人に出遭うことは死そのものと思え。
「…破滅の魔女…」

「ここで何をしている」