さてさて、さてと。
日付は曲がります。おじさまが去ってからまた時は経ちました。
すっかり季節も変わったような気がしていますし、別にそんなこともないのかもしれません。
いつだって私の懐は寂しい。
その事実だけは確かで、冬でした。
北風が外から差し込んで、空の瓶をかたかたと揺らしていきます。
嘘です。別に冬の風ではなかった形です。
ただ、外から風が入るとカウンターに並べられた空き瓶がかたかたと揺れるのですよね。
そのうち落ちて割れるんじゃないかと思っています。
oh、大損害。
とはいえ、対策の取りようもありません。
家に接着剤でもあれば別だったかも知れませんが。
瓶に接着剤が付いていたら。注文された時いちいち剥がさねばなりません。
それってすごい面倒でした。
ところでこの棚の瓶たちは何十年ものの酒なのでしょうか。
酒は寝かせれば寝かすほど味わいが出るそうです。
ですから、町のちゃんとした酒屋さんに行けば、
酒は腐らないと言いますが、果たして本当なのでしょうか。
パパン曰くなんの問題もねえという話ですが。
問題しかねえと私は思うわけでした。
だって久しぶりのお客様が大酒飲みだったらどうしましょうか。
酒で酔って暴れながらガハハ不味いと口にするのです。
恐怖。
か弱いルディちゃんはイチコロです。パワーで。
ついでに備品もばちばちんと壊されてしまうかもしれません。
酔っ払いはめんどくさいのです。
パパンは寝入ってしまうタイプで助かります。基本。
さてそんな最中悲しいくらいに伽藍堂の酒場を掃除していました。
別に埃とかたまってないんですけど、ポーズとか決めたくて窓を拭いていました。
しっかり拭いているのでなかなかキュッキュッと音なります。
外からは爽やかな光が差し込み──
──扉の方からそれはもう壊れるんじゃないか?って位のでかい音がしました。
なんてこったい。アンビリーバボー。
足癖の悪さはご遠慮いたします。
私がどこかの叫びのように顔を真っ青にしていたところ、二人組の顔のいい方が、よっ、と気さくに手を挙げてきやがりました。
失礼しました。どちらも顔が良すぎます。
その二人組はもしかしたら映画俳優などなのかもしれません。
人離れしているほどに、顔整い。 どこか人形を想わせるくらいに、精巧。
それに全く似合わないクソデカ大声。
はろー!と手を挙げるものですから、私は思わず珍しく、ええ珍しく苦笑いしていたかもしれません。
クハ、いい笑顔〜も破顔するひとの口からは、八重歯がのぞいており。
「…………」
「フィクション」
「いいえ、ノットフィクションです」
「こんにちは、人間」