【3.古代文明に夢を見た】
古魔導時代、世界はひとつだった。
巨大な大陸があって、
その中で地域が分かれていて。
原初の魔法の国エルテハイムは
その西方に位置していた。
そしてエルテハイムが生まれて数十年後、
超大陸の東方で急な技術革命が起きた。
そしてひとつ、新たな国が誕生したのだ。

「機械帝国アルティリッツ。
魔法を退け、機械の力だけで
世界を獲ろうとした国だ」

「穏やかなエルテハイムの民とは違い、
彼らは活動的で、他者の権利侵害も厭わない」

「そして次第にエルテハイムの民を
“魔女”と呼ぶようになって、
争いが生まれ始めたのさ」
そんなある時期、超大陸の中央で、
魔法と機械を融合させた“魔科学”が生まれた。
魔科学を扱う者たちは中央に新たな国を作り上げた。
それこそが──

「中央国家フオルヴェン。
後に“古代文明”と呼ばれることになる
この時代の、要の国だねぇ」
魔科学もフオルヴェンも大いに栄え、
非常に発展した文明へと成長した。
黎明期、世界は天界にまで
繋がりそうな気がしていた。

「僕は“観測者”として一般人やってたから、
魔科学の詳しいこととか知らないし、
だから魔科学の再現も出来ないけどさ」

「…………とんでもない時代だった、な」
今はもう無き、遠い遠い時代。
あの頃はさ、生態系も違っていたんだよ。
古代文明は千年以上の繁栄を謳歌する。
しかしある時、“予言”がされた。
──雷を操る子供を警戒せよ。
──その子供、いつか
世界を滅ぼす可能性を持つ者なり。
予言の子の名はラヴィラン・トライヴァル。
その予言を信じた周りは、
世界の滅びを恐れてラヴィランを殺そうとした。
そんなラヴィランとその仲間たちは、
予言を覆す為に長い長い旅をすることになる。

「…………僕はラヴィランを邪魔しようとした」

「だって世界が滅びてくれたなら、
僕のこの“永遠”も終わるじゃないか」

「…………まぁ結局、何もしなかったけど」
冒険の果てにラヴィランたちは、
隠された予言の真実に気付き、
世界の破滅を食い止める“音”を奏でた。
それによって最悪の事態にはならなかったが、
どの道、災厄は訪れて。
──堕ちてきた星、
壊れゆく文明の史跡。
ラヴィランたちは“その日”が来る前に
地下の巨大シェルターに逃げ込んだけれど。
死なぬケティルは地上に残って、
文明の終わりを見届けた。

「“終わり”は、
本当に本当に、綺麗だった」
あれだけ栄えた魔科学文明は、
墜ちてきた星に、大自然の力の前に、
為す術もなく一瞬で崩壊した。
このまま、世界も壊れてしまったら、
どれだけ良かったろうか。
もしも自分がラヴィランの邪魔をしていたら。
そして破滅の予言が覆されなかったら。
生き地獄のようなこの永遠も、きっと──。

「──あぁ、綺麗だな」
古代文明に夢を見た。
発展し過ぎた文明の、
行き着く果てを知りたくなった。
古代文明に夢を見た。
破滅の予言、ラヴィランの冒険。
訪れる終焉に、期待した。
古代文明に、夢を────。
星が流れる夜に流した涙は、誰にも知られることがなく。
隕石に身を灼かれ砕かれる苦しみを味わいながら、
“神々の大釜”は、生きたまま全てを見届けたんだ。
阿鼻叫喚。ほとんどの人間は地下へ。これが終末。
だけど終わらない、終われない。
覆された予言は、ひとすじの希望となりて。
地形も生態系も、大いに変わってしまった。
世界はまた いちから、やり直しだ。