シャーリー・テンプルを何杯も | 記録詳細

シャーリー・テンプルを何杯も

記録者: 酒場の娘 (ENo. 2)
公開日: 2025-10-05




──世界というものなど、たくさんの選択肢がある。

それはその時に起こった選択であったり。

それは世界に偶発的に起こった出来事が起こらなかったり。

世界には、分岐点が多く、きっと宇宙というものは無限に枝分かれした可能性の群体なのだろう。
そうやって星は回っている。
その時間、その時に選び取った/選択した/起こってしまった、出来事の中で。
それがたとえ間違いであっても。

それでも、世界は進んでいく。


針の刻みは一定。それすら人が決めたものだ。
時間は、すべての人に平等に与えられるものだろう?









──嗚呼、だから例えばの話をしている。

或る世界の分かれ道。
外側からホールを開け、入り込んだインベーダー。
それに悪意はなくても。それは乱入者である。
世界の形は、運命はそれだけで揺れる。
遠い未来も観測不可能となる。
清水に泥が落ちれば、それを取り除くことは不可能だろう?
上書き保存されたようなものだ。
様々ななかったことの可能性が浮き彫りになる。


けれども、この世界は清水だった。
この世界は正しく、修正をされた。
正しいめぐりの世界の話。


──もしも、或る時、あの時間に。


──赤ずきんの子供人形が、降ってこなかったら?







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というわけですがプッペ・ポップヒェン


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なにが、と、いうわけなんだよりんご


舞台の裏側というのはいつもやかましいものだった。
このように一対一の対話が繰り広げられている。
今回の舞台の外のものたちは、関係ないように話している。
いないという大前提が故の、舞台裏。
黒子とすらなりようのない。

「あなたがいない世界の話をいたしましょうという訳ですが」
「あなたなど本来いないものですから」
「どこに行っても誤字脱字」
「ねえ?そんな扱いはごめんでしょう」

ははは、と。金髪碧眼の和装青年は乾いた笑い声を上げた。
セリフを読むように棒的に。
これがデフォルトの喋り方なんだから救いようがない。

だから早く、壊されていただけませんか?

りんごはそれいいたいだけだろ〜?!

今回の蚊帳の外。
子供人形の方は怒りを含んだ声を出す。
どちらかといえば子供らしく拗ねた声。
あきれもふくんでいた。
案外にしつこい彼だった。
それまでに、執着がない理由もわかるのだが。

「やだよ。プッペはこれを“えらんだ”んだからな」
「まだみたいあしたも、あそびたいおともだちも、おはなししたいひともいるぞ」
「それにりんごがそーいうなら」

「よけーにいやだぞ」


一蓮托生。人殺しにはなりたくない。
青いガラス玉の瞳が睨みつけてくるのを、和装青年は残念そうに見つめ。


「はあ、はあ」
「まあよろしい。そのように申し上げるのは明白でした」
「さて、さて、主題がずれましたから戻しましょう」

「俺たちはあくまで語り部であり、枠外のものたち」

「茶番劇は終幕といたしまして」

「はい。物語の、事始めを」






──はじめにかみさまがいました。


──かみはせかいをつくられ、ひとをつくられ、どうぶつをつくられ、そして、それらいきものをかんさつするためのいきものをつくりました。

せかいはうまくまわるよう、かみさまはがんばりました。

がんばって、がんばって、がんばりつづけて──


なにごとにもたいきゅうねんすうはあるものです。そうでしょう?







──場所は変わって、ある東国の話でもいたしましょう。

ああ、急に話が飛んだって、確かにそうなのでしょう。
これらの話は断片的な話の繋ぎ合わせでしかない。
ですから、出てくる人も、話の色も、すべてかわるがわる行われるのです。
無論、ある少女が主軸の話ではありますが。

その少女の話をする前の前提を長めにとらせてもらっているのです。
ちゃんと着地点はそちらですから、ご安心を。

さて、ある村に住む、ある剣士の話をいたしましょう。

その剣士は、毎晩村の近辺の山に現れる魔物を狩って暮らしていました。
山のてっぺんには、夜深くなると“穴”が開くのです。
そこから、見たこともない、強い強い魔物は、飛び出してきます。
そして山を下ろうとするのです。

剣士は、斬ることが好きでした。
一刀両断。それが信念であり。趣味でした。
村人から感謝されながらも、力のある強い魔物を切り捨てる。
そして、あとは家族のもとでのんびり過ごす。
それが毎日のルーティンでした。

そのルーティンが激変したのは、本当に突然のことだったのです。


ある日、その“穴”は開かなくなり。
それっきり、夜空は墨色に染まったまま、揺れることはありませんでした。

一度も。


剣士は翌る日も翌る日も山を登り、その空を確認し続けていましたが。
本当に、揺れることはなかったのです。


剣士はまいったように頭をかきました。
生きがいの一つを失ったも同然でした。
しかして、以前のように旅をするわけにもいきません。
大切な妻が残していった、自分の可愛い子供がいます。


「…………………」


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「………いた、………しかたない、……ね」

刀の柄を一度撫でました。
錆ひとつなく、手入れされ、これからも手入れし続けるだろうそれでした。
月明かりの元、鋼が鈍く輝くことはもうないのでしょう。
少なくとも、この土地では。

刃無く、キルも無い。
全く無いわけではありません。穴以外からも、野蛮な動物や獣は降りてくることはありますから。
それでも、毎日、大物と戦う日々は置き去られるのでしょう。
しあうことは、もう無い。

それだけでした。

そんな穏やかな風に満ちた生活に、果たして自分は耐え切れるか。
どうしたって、外れもの。
普通のエルフから外れていて、人間社会からも外れていた。
ここでは役割をもらっていたから、ここにいたに過ぎないのです。

外れものが、やっと輪っかに交れたと、剣士は思っていました。
村人はいい人で。
妻はいい人で。
子供は、確かに可愛かった。
そう言ったものは、手触りがいい。
そう言ったものを、好くことは、できる。


いささか疑問でしたが、家族や村人と豊かに暮らす時間が嫌いで無いことも事実。



きっとなんとかなる。


明日からどうしようか。

些か普通すぎる言葉を頭に描きながら。
今まで描けなかった普通の言葉を描きながら。


剣士は山を降りていくのです。


一人息子が待っていますから。





さて、前提の話はここまでといたしましょう。
その世界には穴が空いていた。
穴が空いているのが正しい形でした。

神には耐久年数、というものがございます。
いつかは壊れ、そうして廃れていく。
もしくは新たな形となり、別の神がつく。
まあどの世界もそんなものでしょう。どうでしょう。
わかりかねます。神というものは。

ただ、この世界の正史としては、神は壊れかけているということだけ存じ上げていればよろしい。

今回話す話は、あくまでifでしかありません。
ifと言っても、ただ一つが異なるだけです。
先ほど出てきた少女人形が、落ちてこなかった。
ただそれだけ。
バタフライ・エフェクトと申し上げます。
蝶の羽ばたきが全てを変えていく。
風が吹けば、桶屋は儲かりますよね?

あの子供人形は、ただ、落ちるだけで世界を狂わせる。
ああ別に、あの子供人形だから、というわけではありません。
異世界からの乱入者、なんて、いつだって話を、人の人生を狂わせるものでしょう?
現にあなた方はそれをよく知っているはずなのです。でしょう?

──故に排除をすれば。

正しい世界が見えてくる。
穴は埋まった。
神は治った。


──その話を、一つ。

語り部も交代もいたしましょう。
それではまた、必要な時に。





それでは、昔々、ある昔。
いえ全然昔ではないんですけどね。
だいたいこのようにすると話の収まりがいいのです。
とっぴんぱらりのぷうで終われます。

昔々、ある昔。
とっても可愛いルディちゃんという女の子がいました。
ルディちゃんは酒場の娘さんでした。いえい。
なんてったって可愛いルディちゃんがいるのですから、酒場は大繁盛!大成功!大富豪!


では当然ありません

そりゃまたびっくりするくらいの閑古鳥が鳴いていました。えーん。しくしく。
今のは鳴いたフリです。ルディちゃんは演技も得意。嘘です。
かつて依頼がたくさん貼られていたボードは汚れています。
ゆかはしみったれています。
天井は若干埃っぽく。
机がピカピカと磨かれているのが、逆に哀愁があって不気味なことでしょう。
そしていくつも設置されていて。
それらが埋まることもなく。
2階の宿部分は、もう長いこと人が泊まってません。
嘘です。
一応泊まってはいるんですね。たまに。
でも最盛期は毎日のように誰か泊まっていたそうですから。

廃れています。完全に。なんてこったい。

「今日も今日とてからっぽです」
「寂しいことですね、パパン」

パパンは別にという回答でした。
パパンは流行らせる気もなければ、終わらせる気もないため、このような返答がエコーとされています。
家族経営で回っている家でした。ママンが何よりの稼ぎ手です。
ママンが何しているかはちょっとよく知りませんが。
ママンは教えてくれません。ただ、朝方に帰ってきます。
から続いちまってるわけでした。なんとかなるものですね、酒場経営って。
趣味でしかありませんし、パパンはお客が来なければ勝手に酒を飲むんだから困りものです。
昔はよく働いていましたが、今はやさぐれでこの有様だそうです。
まあ、パパンはママンがいる時はやさぐれでありませんし。
ママンもパパンと話す時楽しそうでした。
円満家庭でございます。
酒場としてはまいっちんぐです。

「……」

店内の掃除も済んでしまいましたので、ひとりごちタイムといたしましょう。
日の当たる席に座って、頬杖をついて、窓を眺める。
おお、なんと神秘的な美少女──
自画自賛です。

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「…………」

ため息も重く吐いておきましょう。これでなアンニュイ感も出ます。
幸薄感もあるでしょう。
幸薄には思いませんが。

びっくりするくらい変わり映えのない日々です。
物語にしようにもしようがない。
日々徒然を日記にしたところで、それ、面白いから読まれるのでしょう。
起承転結はなく、ただ私が生まれて続いている。
それだけは確かでした。いえい。

──ただ、転じることはありませんが。
回想を一つずつすることはできます。
この通り廃れた酒場ではありますが、時折泊まる人が訪れることもあるのです。
そう言った人たちをピックアップすれば、多少マシにもなりましょう。


そんなわけで、私の観察・シチュエーションは、明日あたりから始まるのでした。







──少女の生存戦略は。
傍観することでできていた。
自覚症状は無し。

ただ、一定で生きている。