【2.古魔導時代に名は生まれ】
赤眼の鴉が、孤独な少年を導いた。
赤眼の鴉によって、少年は天界に辿り着いた。
赤眼の鴉に告げられて、
少年はそして生まれの真実を知った。
そうさ、そうさ、そうだろうね。
分かっていたとも。

「…………僕は、人じゃないんだ」
分かっていたけれど、胸が痛くて苦しかった。
僕も人で在りたかった。
僕は、人だと思っていた。
突き付けられて俯く僕を、
闇神の赤い眼が無表情に見ていた。
そしてその後、少年は名前を与えられた。
地上には名前すらなかった時代に、
付けられたそれは────。
あぁ、僕はどうしても、
宿命から逃れることは出来ないんだ。
それから時が経ち、地上には“名前”が生まれた。
魔法の原型のようなものも誕生した。
この時代を、今の彼は
「古魔導時代」と呼んでいる。
少年は成長出来ぬ身を隠し、
各地を転々としながら過ごすようになった。
“人間の子供”として振る舞うようになった。
実年齢は、とうに子供を超えていてるけれど。
少年の姿をしたこの知恵者を、
いつしか人々はこう呼ぶようになった。
──“神々の大釜”と。
本当の名前は好きじゃない。
己が人間でないことを思い出すから。
別の名を与えられたのなら、
それを通称にしてしまえ。
だから少年は本名を捨てて、
“アルンケティル”になったのだ。
少年は、死ねないその身で
原初の魔導の発展を見守った。
やがて人々は大いに栄え、
魔導の国エルテハイム、
最初の王国を生み出した。

「古魔導時代。
まさに、“始まりの時代”と呼ぶに相応しい」

「名前も暦も、この時代に生まれたんだ」

「…………悪い時代では、なかったよ」
誰とも深い関係を築かずに、
観測者として見守った日々。
⬛︎⬛︎⬛︎の僕は周りとは違う。

「…………寂しいなんて、思わない、から」
“強い鷹”が死んで幾つもの季節が巡った。
少年は 死ねないその身を抱えて、
澄み切った空を見上げていた。