万年紀【2.古魔導時代に名は生まれ】 | 記録詳細

万年紀【2.古魔導時代に名は生まれ】

記録者: アルンケティル (ENo. 16)
公開日: 2025-10-08

【2.古魔導時代に名は生まれ】

 赤眼の鴉が、孤独な少年を導いた。
 赤眼の鴉によって、少年は天界に辿り着いた。
 赤眼の鴉に告げられて、
 少年はそして生まれの真実を知った。

 そうさ、そうさ、そうだろうね。
 分かっていたとも。

「…………僕は、人じゃないんだ」

 分かっていたけれど、胸が痛くて苦しかった。
 僕も人で在りたかった。
 僕は、人だと思っていた。

 突き付けられて俯く僕を、
 闇神の赤い眼が無表情に見ていた。

 そしてその後、少年は名前を与えられた。
 地上には名前すらなかった時代に、
 付けられたそれは────。

 あぁ、僕はどうしても、
 宿命から逃れることは出来ないんだ。

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 それから時が経ち、地上には“名前”が生まれた。
 魔法の原型のようなものも誕生した。
 この時代を、今の彼は
 「古魔導時代」と呼んでいる。

 少年は成長出来ぬ身を隠し、
 各地を転々としながら過ごすようになった。
 “人間の子供”として振る舞うようになった。
 実年齢は、とうに子供を超えていてるけれど。
 
 少年の姿をしたこの知恵者を、
 いつしか人々はこう呼ぶようになった。

──“神々の大釜アルンケティル”と。

 本当の名前は好きじゃない。
 己が人間でないことを思い出すから。
 別の名を与えられたのなら、
 それを通称にしてしまえ。

 だから少年は本名を捨てて、
 “アルンケティル”になったのだ。

 少年は、死ねないその身で
 原初の魔導の発展を見守った。

 やがて人々は大いに栄え、
 魔導の国エルテハイム、
 最初の王国を生み出した。

「古魔導時代。
 まさに、“始まりの時代”と呼ぶに相応しい」

「名前も暦も、この時代に生まれたんだ」

「…………悪い時代では、なかったよ」

 誰とも深い関係を築かずに、
 観測者として見守った日々。
 ⬛︎⬛︎⬛︎の僕は周りとは違う。

「…………寂しいなんて、思わない、から」

 “強い鷹”が死んで幾つもの季節が巡った。
 少年は 死ねないその身を抱えて、
 澄み切った空を見上げていた。

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