あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。
またあの部屋に来たようだ。
小さな部屋には相変わらず椅子は一つきり。
壁を向いた椅子の先には、やはり何も見えない。
──あなたが椅子に座れば、
視界の向こうに椅子があり、そこに誰かが座っている。
三角に身体を縮めて座っていた
長い髪を気だるげに結んだ白い服の女が、
あなたに気付いた様子で緩慢に顔を上げた。

「……えー……なんか居るんだけど。どゆこと?」

「あー……まあ……ども。
名前とか……あー…じゃあ、シロでいいや、この部屋白いし。
君は……じゃあクロ。なんかぼんやりしてるし」
知らないもの同士、名前を名乗るモンでもないでしょうと。
シロを名乗った女は畳んだ身体をほどいて、
んん、と小さな声を漏らしながら伸ばす。

「……こーいうのって、なんかあったよね。
白い部屋に閉じ込められて……なんか……出られない部屋的な?
初対面でこんなんされてもおもんねー……」

「なんかこの白さ落ち着かねー……、
内側をざわざわ触られてるみたいなー……。
なんでこんなとこにウチら集められたんだろ。おもろい話なんてできねーっつの……」
嘆息ひとつ零した後、
白い部屋の隅の方に目を遣って、女はぼやく。

「まー……夢ん中……なんかな。何話してもいいっちゃいいのか。
クロだってウチの無意識が作った偶像みてーなもんかもだし……
返事返って来るかもわかんねーし、適当こくか」
女は髪を束ねているリボンをいじる。
それは落ち着かない子どものようであり、退屈を紛らわせる大人の仕草にも見えた。

「クロはさ、生きる理由とかって何だと思う?」
──あなたには生きる理由はありますか?
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「別に生まれた時点で生きる理由とか要らね―とは思うけど、
あった方がちょっと嬉しいというか、豊かな気がするんだよね。
親が望んだから生まれた、以外の意味があった方が……なんかいいじゃん?」
言いながら、女はリボンをきゅっと締め直す。
その指先だけは、妙に確かだった。

「生きる理由ってより人生の目的……って言う方が正しいのかも。
小さい時からなんか、皆と一緒に~とか、大人の言う事を聞け~とかで
結局どう生きたいかって全然分かんないなーってさ?
ガチガチに矯正したくせに、急に「自分のやりたい事をやれ」って放り出されて、
なんかそのまま今になっちゃった、みたいなさ……」
あなたをじっと覗き込む。
その視線は、答えを求めているようで、ただ誰かと共有したいだけのようでもあった。

「クロはそういうのあんの?
ウチも生きる理由っての──拾えるもんなら拾いたいんだよね。……皆目的に向かって歩いてるのに、
ウチ一人だけ足を止めてる気がして、怖いからさ」