Chapter03-04

記録者: 薄場心檻 (ENo. 146)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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女はじっとあなたの言葉を聞いて、それで、
ふ、と何かを思ったようにあなたに視線を向ける。

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「……あのさ。
 誰かのために生きるって、なんか難しいと思わない?」

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「ああごめん、急にさ。でも……ウチ思うんだよね。
 期待されて、期待に応えようと頑張るじゃん?
 勿論そりゃ、応えるのって義務じゃないけど……出来れば応えたい、じゃん?」

自分の指先でもてあそぶ髪の毛が、ゆるく揺れる。
その指先は、癖のように、逃げ道のように、同じ束を何度も撫でていた。

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「誰かのために頑張るのって、嫌いじゃないんだよ。
 でもさ、その“誰かに似合う自分”を続けなきゃいけないのが、ちょっと怖い」

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「ウチ、そんな器用じゃないし。
 似合う自分のサイズ、毎回ぴったりじゃないんだよね。

女はくすっと笑う。
その笑いは軽いのに、どこか無理に持ち上げた声色だった。

そして、あなたを少し覗き込む。

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「クロは、自分の価値ってどこに置いてる?
 ……他人をどれだけ、自分の価値に使ってる?


──あなたは、自分の価値に他人の評価をどれだけ使っていますか?

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「“誰かのために”動こうとするとさ、
 結局ウチ、自分がしんどくなっちゃうんだよ。
 都合よく使われてる感じ、というか……」

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「でも逆に、全部“自分のため”だけにすると、
 それはそれで空っぽになるんだよね。
 なんかこう……味のしないガムを噛んでる感じ」

だから、と言いかけた口を噤む。
ちょうどいい言葉を探す様に視線が白い天井を揺れて、
ああ、と小さな声を零して、ようやくあなたに視線が戻った。

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「……誰かのために頑張るのって、
 “その人に向けた”自分の“好き”って感情なのかもな」

それで、少し照れくさそうに笑う。

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「ウチは、その“好き”が続けられるかが自分にとって大事……だと思う。
 相手が好きって事……じゃなくて、好きって感情を持てる自分のほう。
 “好きを与えられる自分”、が一番価値がある、と思う……のかな」

うまくまとまらないや、なんて苦笑気味に言った後、
息を細く吐き、椅子にもたれ直す。

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「……ま、そんなに上手くいかないんだけどね、現実は」

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それまでニヤニヤと軽薄に笑っていた表情を引っ込め、真顔になる。
ふとそれに気づいて少し顔に触れて、肩をすくめてまたいたずらっぽく笑う。

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「そうだねぇ。誰かのために生きるとか、よく聞く気もするけど。子供のためとか恋人のためとか?」

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「お前のためを思って言ってるんだ、って言う大人って、大体その大人の都合でそう言ってたりね。誰かのため、って言いながら、本音は自分のためだったりする。でも、本人ですら、その本音に気付いてなかったりするよね」

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「いや、なんかシロが言ってるのは相手のために頑張りすぎると疲れちゃうし、頑張らないのはさみしいって感じかな。ちゃんと相手のためになれてるならちゃんとしてるなって思うけど」

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「うん、でもそれはそう、シロが自分で言ってる通り、相手を好きなままで居られる程度で頑張れば良いんじゃないかな。テキトーが一番だね。テキトーが難しいんだけどね」

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「まぁでもうちは、誰かのために、って結局自分のために、っていうか、自分がそうしたい、な気がするなぁ。誰かのために頑張るの無理かも」

首を横に振ってペロッと舌を出して見せるだろう。