Chapter03-03

記録者: フェルヴァリオ (ENo. 64)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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「……そっか」

一言だけをぽつりと落とし、その後の言葉を探すように目が泳ぐ。
何かを言えば軽くなってしまうし、黙れば重くなる。
その中間を彷徨うような視線の動きだった。

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「いや、なんかあんま気の利いた事言えないや。
 テキトーな相槌を簡単に言うのは失礼っていうかさ……」

女は椅子にもたれかかり、髪を指で弄りながらぼやくように言葉を零す。
……指先で“間”を誤魔化しているようだった。

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「……じゃあ、さ、クロ。
 クロって誰かに期待されたりすることって、ある?」

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……誰かに期待されてるって思うの、疲れない?


──あなたは、“期待”に対してどのような感情を抱きますか?


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「ウチさ、親とか先生とか、あと周りの人とか……
 期待されるとさ、なんかこう……自分のペースで動けなくなる気がして」

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「でもさ、期待されるのって悪いことじゃないのも分かるんだよね。
 褒められたり、認められるのって、ちょっと嬉しいし……」

言葉はゆっくりと紡がれていくなか、指先だけが落ち着きなく動く。
笑っているような、笑っていないような声だった。

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「けど、期待ってさ、“応えられなかった時の怖さ”までセット販売なんだよね。
 おまけに“努力不足に見られちゃうリスク”付き」

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「嬉しいのに疲れる。
 ありがたいのになんか苦い。
 クロはそういうの、ない?」

Answer
シロは椅子にもたれかかり、髪を指で弄りながらぼやくように言葉を零す。
……指先で“間”を誤魔化しているようだった。

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「……じゃあ、さ、クロ。
 クロって誰かに期待されたりすることって、ある?」

その声はとても静かで、
息を潜めたように淡々としていた。

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「……誰かに期待されてるって思うの、疲れない?」


まるで、自分の心のどこかの奥でずっとつぶやいていた言葉を
そのまま外に出したような響きだった。

フェルヴァリオは、一瞬考えたものの──
すぐに淡々と、しかし妙に率直に話し始める。

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「期待されること? 全然あるよ。」

白い部屋の中心で、フェルヴァリオは指折り数えた。

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「錬金術で人間を生き返してほしい」


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「寿命を延ばしてほしい」


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「裕福にして欲しい、とか」


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「美しい女を手に入れたい、とか」


数えるたびに、シロの眉がひそまっていく。

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「……そんなんばっか」

フェルヴァリオは肩をすくめる。

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「錬金術は万能じゃない。
 まあ……そう言えば、人間は諦める」

言ってから、ぼそっと付け足す。

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「でも、本当は全部叶えられる力を持ってるから
 どう誤魔化せばいいかわからない」

小さく吐き捨てるような本音だった。
フェルヴァリオは答えず、ただ、ただ視線を落とした。

その沈黙に重ねるように、ぽつりと続ける。

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「兄貴たちは、もっと上手いんだよな」


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「人間と付かず離れず、
 “いい距離感”ってやつで接してるらしい」


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「オレは……なんでか全部、
 真正面から受け止めちゃうんだよ」

声は荒くない。
ただ、静かにこぼれ落ちる。

しばらくの沈黙のあと、
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「期待って、さ。
 願いを押しつけた分だけ、叶えた人の心を削るから」

その言葉は白い部屋によく響いた。

しばしの沈黙のあと、
フェルヴァリオは言葉を飲み込むように眉を寄せた。

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「……じゃあさ」

ぼそっと、吐き出す。

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「期待に応えるって、悪いことなの?」