シロは椅子にもたれかかり、髪を指で弄りながらぼやくように言葉を零す。
……指先で“間”を誤魔化しているようだった。

「……じゃあ、さ、クロ。
クロって誰かに期待されたりすることって、ある?」
その声はとても静かで、
息を潜めたように淡々としていた。

「……誰かに期待されてるって思うの、疲れない?」
まるで、自分の心のどこかの奥でずっとつぶやいていた言葉を
そのまま外に出したような響きだった。
フェルヴァリオは、一瞬考えたものの──
すぐに淡々と、しかし妙に率直に話し始める。

「期待されること? 全然あるよ。」
白い部屋の中心で、フェルヴァリオは指折り数えた。

「錬金術で人間を生き返してほしい」

「寿命を延ばしてほしい」

「裕福にして欲しい、とか」

「美しい女を手に入れたい、とか」
数えるたびに、シロの眉がひそまっていく。

「……そんなんばっか」
フェルヴァリオは肩をすくめる。

「錬金術は万能じゃない。
まあ……そう言えば、人間は諦める」
言ってから、ぼそっと付け足す。

「でも、本当は全部叶えられる力を持ってるから
どう誤魔化せばいいかわからない」
小さく吐き捨てるような本音だった。
フェルヴァリオは答えず、ただ、ただ視線を落とした。
その沈黙に重ねるように、ぽつりと続ける。

「兄貴たちは、もっと上手いんだよな」

「人間と付かず離れず、
“いい距離感”ってやつで接してるらしい」

「オレは……なんでか全部、
真正面から受け止めちゃうんだよ」
声は荒くない。
ただ、静かにこぼれ落ちる。
しばらくの沈黙のあと、

「期待って、さ。
願いを押しつけた分だけ、叶えた人の心を削るから」
その言葉は白い部屋によく響いた。
しばしの沈黙のあと、
フェルヴァリオは言葉を飲み込むように眉を寄せた。

「……じゃあさ」
ぼそっと、吐き出す。

「期待に応えるって、悪いことなの?」