シロは椅子の背もたれにだらりと寄りかかり、片手で髪を弄る。
視線だけはフェルヴァリオに向いているが、どこか遠くを見つめるようでもあった。

「ねぇクロ。その話で思ったんだけどさ……
……変わる事って、どうしてこんなに難しいんだろうね」
天井を見上げたまま、ぼそっと続ける。

「小さい頃はさ、色々なものに手を出せて、影響を貰えて、変わっていけて、
でも今は……うーん、なんか、平行線というか……」
手の動きが、無意識に髪を絡める。
その髪の長さが、絡めた長さほど短かった頃を思い返すように。
言葉に迷うような沈黙が一つ。
下に移動していた視線をフェルヴァリオに持ち上げ直して、首を傾いだ。

「クロはどう?
変わろうって思うのに、……よくないと分かってるのに、
どうしても変われないことってある?」
フェルヴァリオは、質問が耳に届いた瞬間──

「あ、そうだ」
全く別の方向に意識が飛んだ。
ポケットから手帳を取り出して、白い部屋の壁をコンコン叩いてメモをとり始める。

(……この部屋にまた戻ってきた場合の対策をまとめておいた方がいいな)
フェルヴァリオの筆記速度は早い。

「変われないこと、ね……」
と言いながら、全然違うことを書いている。

「この部屋のこと? それとも脱皮の周期?」
独り言のように呟きながら、次々とメモを増やす。

「フラスコの並び順は変えちゃいけない」

「神経毒の抜き方は、えーっと……安静にすること。
樹液で薄めること……?……いや違うか」
ぜんぜん関係ない。
関係ないのに、確かに“変わらないフェルヴァリオ”がそこにいた。