Chapter03-01

記録者: フェルヴァリオ (ENo. 64)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

またあの部屋に来たようだ。
小さな部屋には相変わらず椅子は一つきり。
壁を向いた椅子の先には、やはり何も見えない。

──あなたが椅子に座れば、
視界の向こうに椅子があり、そこに誰かが座っている。
三角に身体を縮めて座っていた
長い髪を気だるげに結んだ白い服の女が、
あなたに気付いた様子で緩慢に顔を上げた。

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「……えー……なんか居るんだけど。どゆこと?」

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「あー……まあ……ども。
 名前とか……あー…じゃあ、シロでいいや、この部屋白いし。
 君は……じゃあクロ。なんかぼんやりしてるし」

知らないもの同士、名前を名乗るモンでもないでしょうと。
シロを名乗った女は畳んだ身体をほどいて、
んん、と小さな声を漏らしながら伸ばす。

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「……こーいうのって、なんかあったよね。
 白い部屋に閉じ込められて……なんか……出られない部屋的な?
 初対面でこんなんされてもおもんねー……」

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「なんかこの白さ落ち着かねー……、
 内側をざわざわ触られてるみたいなー……。
 なんでこんなとこにウチら集められたんだろ。おもろい話なんてできねーっつの……」

嘆息ひとつ零した後、
白い部屋の隅の方に目を遣って、女はぼやく。

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「まー……夢ん中……なんかな。何話してもいいっちゃいいのか。
 クロだってウチの無意識が作った偶像みてーなもんかもだし……
 返事返って来るかもわかんねーし、適当こくか」

女は髪を束ねているリボンをいじる。
それは落ち着かない子どものようであり、退屈を紛らわせる大人の仕草にも見えた。

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「クロはさ、生きる理由とかって何だと思う?


──あなたには生きる理由はありますか?

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「別に生まれた時点で生きる理由とか要らね―とは思うけど、
 あった方がちょっと嬉しいというか、豊かな気がするんだよね。
 親が望んだから生まれた、以外の意味があった方が……なんかいいじゃん?」

言いながら、女はリボンをきゅっと締め直す。
その指先だけは、妙に確かだった。

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「生きる理由ってより人生の目的……って言う方が正しいのかも。
 小さい時からなんか、皆と一緒に~とか、大人の言う事を聞け~とかで
 結局どう生きたいかって全然分かんないなーってさ?

 ガチガチに矯正したくせに、急に「自分のやりたい事をやれ」って放り出されて、
 なんかそのまま今になっちゃった、みたいなさ……」

あなたをじっと覗き込む。
その視線は、答えを求めているようで、ただ誰かと共有したいだけのようでもあった。

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「クロはそういうのあんの?
 ウチも生きる理由っての──拾えるもんなら拾いたいんだよね。……皆目的に向かって歩いてるのに、
 ウチ一人だけ足を止めてる気がして、怖いからさ」

Answer
まただ。

白い部屋。
ひとつだけ置かれた椅子。
どこにも影がなく、どこにも出口がない。

フェルヴァリオは眉間に皺を寄せる。

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(……絶対おかしい。弟が悪戯したか、もっと妙な力か。
 この“繰り返し”は自然じゃない)

ため息をつきつつ椅子に腰を下ろすと、今度は黄色帽の少年ではなかった。

境界の向こうに、体育座りをした女がいた。

白い服。
長い髪はひとまとめに結ばれているけれど、その様子はあまりに気怠く、
“重力に従うだけ”のようなしなだれ方だった。

彼女は、ゆるく顔を上げてリオを見る。

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「……えー……なんか居るんだけど。どゆこと?」

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「あー……まあ……ども。
 名前とか……あー…じゃあ、シロでいいや、この部屋白いし。」
 
声すらも伸び切ったように重い。
そしてフェルヴァリオを眺めて、ぼんやりした表情のまま、

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「君は……じゃあクロ。なんかぼんやりしてるし」」

まったく悪気はなさそうだった。
ただ、事実をそのまま投げたみたいな口ぶり。

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「クロ……?」

と呟きながら困惑した顔を隠せないフェルヴァリオ。

シロは伸びをするように小さく声を漏らし、
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「……こーいうのって、なんかあったよね。
 白い部屋に閉じ込められて……なんか……出られない部屋的な?
 初対面でこんなんされてもおもんねー……」

あきらめを抱いた声音で続ける。

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「なんかこの白さ落ち着かねー……、
 内側をざわざわ触られてるみたいなー……。
 なんでこんなとこにウチら集められたんだろ。おもろい話なんてできねーっつの……」

嘆息ひとつ零した後、白い部屋の隅の方に目を遣って、女はぼやく。

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「まー……夢ん中……なんかな。何話してもいいっちゃいいのか。
 クロだってウチの無意識が作った偶像みてーなもんかもだし……
 返事返って来るかもわかんねーし、適当こくか」

シロは、ほんの少しだけ視線を戻し──
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「クロはさ、生きる理由とかって何だと思う?」

白い部屋に、その問いだけが異様に生々しく響いた。

フェルヴァリオは、シロの問いを反芻した。
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「生きる意味って────」

言いながら、手を動かす。本能のように。
焰を指先に灯し、部屋の構造を“読む”。
錬金術的な式を組んで、壁に触れ、因子を分解しようとする。

……だが。

ぱち、と音がして焰は霧のように散った。

“何も変化がない。”

魔素の流れも、素材も、世界の骨組みも感じ取れない。
まるでこの部屋そのものが“存在していないような”空虚さ。

フェルヴァリオは目を細めた。

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「……まあ、こういうことだろうね。」

シロは、膝を抱えた姿勢のまま、
天井を見上げるでもなく、床を見るでもなく、ただ宙の一点をぼんやりと眺めていた。

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「別にさ、生まれた時点で
 “生きる意味”とかいらねーとは思うけど」

口調はだるいのに、その内容だけ妙に鋭い。

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「でもさ、あった方が実際嬉しくない?
 豊かっていうか……なんつーか」

指先で自分の髪の先をつまんで、くるくる回しながら続ける。

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「生きる理由ってより人生の目的……って言う方が正しいのかも。」

フェルヴァリオは、少しだけ眉を寄せた。

人生の目的──
ヴリトラとして世界から期待される“強大さ”。

その定義の中で生きてきた自分を、どこか客観的に見つめ直すような気分になる。

気まずさと、ほんの少しの戸惑い。

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(……そういう風に考えたこと、あっただろうか)

シロはフェルヴァリオをじっと覗き込む。
その視線は、答えを求めているようで、ただ誰かと共有したいだけのようでもあった。

そして、フェルヴァリオに向けて、重そうなまぶたを少しだけ持ち上げる。

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「クロはそういうのあんの?
 ウチも生きる理由っての──拾えるもんなら拾いたいんだよね。
 ……皆目的に向かって歩いてるのに、
 ウチ一人だけ足を止めてる気がして、怖いからさ」

部屋は白く、空気も静かで、
逃げ場がないほどに真っ直ぐな問いだけが残った。