Chapter02-01

記録者: シャルティオ (ENo. 14)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたが以前来たあの部屋と、まったく同じに見える。
壁に触れても感触は無く、すり抜ける事も出来なければ
もうひとつの椅子を見る事も叶わない。

──あなたが椅子に座れば、部屋は拡張されたように感じる。
視界の向こうに椅子があり、そこに誰かが座っている。

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「あれ?」

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「あはっ、すごい。君っていつの間に居たの?
 ちっとも気付かなかった!だってさっきまで誰も居なかった、
 君の音はひとつも聴こえて居なかった!きっと何かが君を導いたんだね」


奇抜な色彩を纏った少年が、にこやかに楽しげにあなたを見ている。
足をぶらぶらと揺らしながら、まるで軽やかな旋律そのもののようだった。
胸元に下げた横笛が、少年の小さな動きに合わせて微かに揺れ、
そのたび、金属が擦れ合う透明な響きが空気を震わせる。

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「ね、僕さ、訊いてみたい事があるんだけど、いい?
 きっとこれは風の導き、新しい楽章の予感!
 今まで聞いたことのない音に出会えそうな気がするんだ!」


少年はあなたに体を傾け、目を輝かせる。
質問を投げかける瞬間でさえ、ひとつの“旋律”を紡ぐように。

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「──君はさ、大人になるってどういうことだと思う?


──あなたは“大人”とは何だと思いますか?

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「僕はね、毎日新しい音を探してる。
 繰り返しばっかりの退屈な道ばっかり歩いてたら、その曲は死んじゃうでしょう?」

空中に弧を描くように指先を動かす。
まるで目に見えない五線譜に、音を刻むみたいに。

その仕草に合わせて、笛が揺れて微かに音を鳴らしたような気がする。
それが空耳なのかどうか、判断できない。

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「僕から見たら大人って、死んだ曲をずっと流してる人たちだ。
 一体何が楽しくてそんなことをしてるのか、僕には全然分かんない!

 君はどう思う?大人ってもしかして僕が知らないだけでもっと楽しいものなのかな?」

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 気が付けばまた、あの部屋だった。
 前のトイカケとその答えを思い出す。
 また、何か聞かれるのだろうか?

 椅子に座れば、あの「オブザーバー」とは
 また違った影を確認した。

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「……お前は誰。
 音楽家…………?」

 貴方は、全身で音楽を奏でているようだった。
 少年はそんな印象を抱いた。

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「…………大人になる、か」

 投げられた問いに、思考。
 少なくとも今の自分は、
 数年前よりも確実に大人になっているはずである。
 それは、単なる肉体的な成長ではなくて。

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「私は…………
 大人になるということはすなわち、
 諦めを知ることだと考える」

 左腕を広げて、天井を見上げた。

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「子供というのは……
 無限大の可能性を信じているんだ」

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「『この空だって飛べるかも』
 『おとぎ話の世界が実在するかも』
 のように? 荒唐無稽な夢を抱き、
 曇りなきまなこでそれを信じて疑わない」

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「そんな純粋さは、
 子供にしかないものだ。
 だって彼らはまだ、現実を知らない。
 そんな無垢なエネルギーは時に、
 大きな奇跡を起こし得るけれど」

 そして。
 淡々とそんなことを語れてしまう己は。

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「…………私は。
 肉体的には子供でこそあるが、
 自認はもう大人だよ」

 広げていた左腕を下ろした。
 瞳の青玉石には、深い輝き。

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「だって私はもう知っている。
 空なんて飛べないこと、
 おとぎ話みたいな綺麗な世界なんて、
 この世の何処にも存在しないこと」

 もうさ、分かっているんだよ。

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「……手の届く範囲を知った。
 己の身の程を知った。
 大きな大きな立場を背負った。
 だから私はもう数年前のように、
 大冒険なんて出来なくなった」

 瞳は少し寂しげだった。

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「──私は、大人になった」

 ならなければならなかった。
 なって、しまった。

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「正直、羨ましいよ…………」

 小さな小さな声、溢した。

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「大人になるということは、
 己の限界を知ることだから。
 無限大の可能性を、信じられなくなることだから」

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「……お前はまだ、“子供”のようだね。
 その鮮やかな音色、大事にするんだよ」

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「……私のように、
 肉体的に子供なうちに、
 色々を悟って諦める必要は、ないから」

 王宮ではもう誰も、
 自分を“子供”としては扱わない。


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「私は王だ。
 何も知らない無邪気な“子供”に、
 そんな重責、務まる訳がないだろう?」

 そうやって“大人”になった僕だけれど。
 それでも奏でる楽曲は、死んじゃあいないから。