あれからの、病院での話。
かなり好き放題書いてる上に長いので読み飛ばし推奨です。

優希
「……」
あれからしばらくが経った。
結局、夢の内容は思い出せていない。
優しい声がしたような、知らない声がしたような。
ふんわりと、なんだか違う感覚だけを覚え続けている私は、看護師の押す車椅子に乗せられ、身体検査に向かっている。

優希
「………ねえ。夢を思い出すって、どうすればいいかわかる?」
「………」
返事はない。当然。
この病院で私はいかにも"腫れ物"だからだ。
かの博士や教授と共にたくさんの研究を重ねてきた私は、今やただの孤児。
博士も教授も一気に失って、大怪我までして。心身共に疲弊どころか、満身創痍の心身喪失の直前のようなレベルまで来ているのだから、触り方がわからないのは当然のことだろう。
…それに、輝かしかった頃からすれば、今はもうやつれて見る影もない、ということも、腫れ物扱いをさらに加速させている要因にも思える。
本当に、自分でもわかるほどげっそりしていて、鏡を見る度「誰だお前」なんて笑いそうになる。
………それで、話を戻すが、一応私は事故遺児、ということになってはいるのだが、一部の看護師の間では私が親である博士や教授を殺した、なんて噂も飛び交っている、らしい。
今度、念のため警察の詳しい捜査なんかが入るそう。事情聴取、めんどくさいなあ………
さて、与太話も程々に。思い出せない夢の話に戻ろうか。

優希
「あーあ、夢の内容がどこかに"記録"されてりゃいいのに。」
もちろん看護師からの返事なんかあるはずがない。
まあでも、私はこれを思い付きの独り言として呟いた訳だから、特に返事がなくてもどうということはない。
記録。………記録?
なにか重要なことを忘れている気がする。あの夢の………。

優希
「(記録………そう、何か記録に関する何かだった気がする………、話だったか物だったか、それすらも曖昧だけれど………何か………)」
………ダメだ、やっぱり思い出せない。
もっとヒントが必要なのに、それすらも思い出せないから、軽いフックすらも掴めない。
もどかしい。こうなるってわかっていたなら、昔お父さんが言ってた『夢記録装置』の研究の話をもっと真面目に聞いていただろうに。
ため息をひとつ。また同じ夢が見れたなら。
覚えておこうという意識だけで、夢は一部覚えていられたりする。

優希
「(もう二度と見れないのだろうけれど……もしまた見れたなら…その時は………)」
そんなことを考えていたら、診察室に着いたようで。看護師によって勢いよく、乱雑に扉が開かれた。
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「では、お願いします、先生。」
そう言って看護師は乱暴に車椅子を診察室に押し込んで、さっさと出ていってしまった。

先生
「もっと丁寧に扱えバカモノォ!!!!」
…先生の怒号が看護師に向かって飛んでいった。

先生
「………ハァ、噂なんかに踊らされやがってあのカスども…あ、やぁ、済まない…。後でよく言って聞かせておくから、奴らの無礼を許してやってくれ…。」
そう深々と頭を下げた彼女は、私の担当医である。
どうやら看護師曰く、この施設きっての凄腕医師…らしい。
資格や免許なんかをたくさん持ってるとか。
ただ…看護師や普通の患者、同業者になんかにはさっきみたいにものすごく怖いのだが………なぜか私には優しい。最初はまた腫れ物扱いかとうんざり思ったが………どうやらそうではないようで。
どうやら昔、私の父に世話になっただのなんだのは言っていたから…まあそういうことだろうか。

優希
「……………いえ。…今日もよろしくお願いします、先生。」

先生
「ああ。すまないな…。じゃあ…ひとまず今日は~………」
この人だけは、私のことを1人の普通の人間として扱ってくれる。
博士の娘だとか、頭がいいとか、親不孝だの偏見が、まるでないように。
………というか、扱いが酷いのは看護師だけで、医師だったりの先生達からはこんな扱いどころか、みんな普通に優しいのだ。
ただ、腫れ物でなく人として扱ってくれるのがこの人だけなのであって。
まあ…その理由はよくわからないが、お陰で私はまだ生きていられている。
これが、この先生からも腫れ物のように扱われていたら、私は心苦しすぎて屋上なんかから身投げしていたかもしれない。
生きる目標すら無くなってしまっていたけれど、優しさに生かされるとはまさにこの事だな、なんてひとりで私は人間の単純さに感心していた。

先生
「それで…もちろんまた精密検査は色々するんだが……特にその後…何か変わったことは?」
ふと、思いつきで、さっきのことを聞いてみることにしようか。
この人も、生前の父と交流があったようだし…何かわかるかもしれない。

優希
「先生はさ、忘れた夢を思い出す時って、どうしてる?」
夢と聞いて、先生は思い切り顔を顰めた。何かまずいことでも言ったような反応だ。
表情が物語っている。なんでよりにもよってアタシに聞くと。
いや…だってしょうがないじゃない。他に聞く人がいないんだもの。
頑張ってこれを表情に出そうとする。
…そういえば、父や教授がいなくなってから、私の顔はうまく動かなくなってしまった。
どうすれば戻るか、なんてことはあまり考えていなかったけれど…こういう時は少し不便かもしれない。
先生はしばらくその顔のまま沈黙していた。けれども私の気持ちが伝わったのか伝わっていないのか…はよくわからないが、何かを思い出すようにゆっくりと口を開いた。

先生
「………………オメェ…次それ聞いたら殺すからな…。まあいい、一個だけお前の親父が言ってたことを思い出した。それだけ話してやる。いいか?2度と聞くな。2度とな。」
ヤバ、どうしよ、めっちゃ怒ってる。
「はい…すいません…」と小さな声で呟いて、そのまま先生の話に耳を傾けていた。
曰く、父は夢の研究も色々していたらしく、しょっちゅうそんな話を周りの人にしていたらしい。
ただ…話している間はものすごい顔をしていたから、あまり先生にとってはいい話ではなかったよう。
内容はこうだ。
博士
『夢っていうのはな、脳みその整理みたいなものなんだ。
だから、思い出すためには昨日の出来事や考え事なんかを思い出してみたり、目覚めた時と同じ寝相になってみるなんてのもいいな。
他にも、最後に見たものから順番にゆっくり辿っていく、バックトラッキングなんて方法もあるんだ。
最後の方は覚えていることも多いだろう?だからそこから出来事を辿っていくんだ。どうだ、簡単だろう?あとは寝る前に覚えておくという暗示を…』
この話を聞き終えた先生は、
『今回は最後まで聞いてやったが今後2度と夢に関する話をするな』
と、私の父に向かって怒鳴ったそうで、あとは知らん。と言っていた。
…どうやら私は、先生の地雷をピンポイントで踏み抜いてしまったらしかった。
今後が少し思いやられる。
それはそうと、いい話が聞けたと思う。
聞いた話の中で、バックトラッキングという方法が1番効果がありそうだった。
とりあえず、検査が終わったらそれを試してみようかな。

優希
「……あの、先生…わざわざお話しいただき…ありがとうございました…。」
怒ってたし、一応ちゃんとお礼、言っといた方がきっと穏便だよね…。
まあ、ひとまずは…この大量の身体検査が終わらないことには何も始まらないんだけれど。

先生。
「ったく…。ま、アイツには世話になったしな。…当然、アイツの娘なんだから、興味あるのも納得だよ。ただ、頼むから今後はアタシに夢の話はしないでくれよ…。」

優希
「はぁい〜、すいませぇん〜」
あ、大丈夫そう。意外にもなんだか、先生にしては優しい対応をされてしまった。
なんだか怒鳴られたりすると思っていたから、拍子抜けしつつ。

先生
「じゃ、他にないならもう検査いくぞ。」

優希
「……はぁ〜〜い…………(………………早く終わんないかな……)」
検査、長いんだよな〜…。当然なんだけど。
とりあえず、バックトラッキングだけ覚えておかなくちゃ。
そう考えながら、私は先生に車椅子を押されて、一つ目の検査に向かった。
先生、なんで怒ってるんですか?
本名 : ルージュ・ハリス 31歳 元軍人。
PTSDがある。そのせいで薬を忘れると悪夢に魘される。
決まって悪夢は覚えているため、夢の話をされるのが大嫌い。
なんで就労できているかは…この世界の人員不足なんかが裏にある。
そもそもここは君たちの考えているような普通の病院ではない。