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記録者: シャルティオ (ENo. 14)
Version: 3 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

【過去編A】
【“正義”の在処】

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【2.この世界を変えるのは】

  ◇

 と、そこへぽつり。

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「…………代償」

 アスエリオと呼ばれた少女の口にしたその言葉を、
 シャルティオは聞き逃さなかった。

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「…………」

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「…………だけれどそんな奇跡みたいな力、
 無制限に使える訳ではないだろう?」

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「えぇ! 改造人間たちには
 それぞれ“代償”が御座います」

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「けれどそれで早死にするとて──
 未来の非魔法民たちの為ならば、
 命ぐらい捧げても問題はないでしょう?

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「…………お前、は」

 得られた情報。察する。
 アスエリオという少女は攫われた子ではないけれど。
 紋章を刻まれ、
 命を捧げるような代償を背負わされている。

 事前に得た情報と、今回の情報と。
 統合し、推測して得た結論は。

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「……お前の理想に共感こそ出来るが、
 そのやり方には賛成出来ないな」

 幾ら理想の為だとしても、
 罪のない子供たちを犠牲にするなんて。
 当の本人は、『犠牲にしている』という感覚では
 ないのだろうけれど。

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「……ルフィード。
 お前はお前が改造人間と呼ぶ子供たちの
 未来を、考えたことはあるのか?」

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「彼女ら単体は
 未来への糧にされるだけで御座いますが、
 総合的に見れば、
 これは善きことでしょう? 陛下」

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「……善い未来の為ならば、
 多少の犠牲には目を瞑るのか?」

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「それは陛下も同じにございます」

 魔局長が、笑っている。
 紋章の刻まれた、赤青の両眼で。

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「陛下がこれから
 成されようとされている改革も、
 多少の犠牲なくば叶わぬでしょう。
 それと私の成そうとしていることと、
 何が違うのですか?」

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「…………ッ」

 痛いところを突かれた。

 自分も、この魔局長と同じ?
 そう。幾ら己の理想が綺麗に見えても、
 必ず、何処かで泣く人が現れる。
 非魔法民を優遇すれば、魔導士が苦しむ。
 それは理解しているんだ、しているんだよ。

 魔局長の言葉を、自信を持って否定出来ない。
 だけど理想も曲げられない。

 沈黙の後、出した答えは。

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「…………なら、
 信じてくれないか」

 青の瞳、真っ直ぐに見上げて。

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「僕はこれから必ず、
 非魔法民差別を無くす。
 そのように動いて国を変える」

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「だからルフィード、
 お前はもうその研究をやめてくれ。
 これ以上犠牲を積み重ねないでくれ」

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「お断り致します」

 魔局長の返事はにべもない。
 紋章の瞳は、暗い。

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「嘘吐きの王様ですね、貴方は。
 信用出来ません。
 だって歴代の王は、
 誰もが私の研究成果だけ欲しがって、
 私の理想に共感なんて
 してくれなかったのですよ?」

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「陛下はあの王の方々とは違うようですが、
 それでもね……」

 瞳は、昏い。

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「私には力があるんです。
 ならば、私がやるしかないんですよ。
 私が動かなければ、
 私の研究が実を結ばなければ、
 非魔法民差別の裏で泣く人々を、
 誰が救えると言うんですか!

 シャルティオは理解する。
 あぁ、この人は、
 誰にも助けて貰えなかったんだなと。

 だから人を信じられず、
 「自分がやるしかない」「自分しか居ない」
 と思い込んで。

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「…………でも、僕は」

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「……ジェミニ。アルオン。ミーナ。
 レティ。ロッキー。テレサ。
 エマ。イーヴァ。リーヴ……」

 名を呟きながら、
 魔局長が天井を見上げた。

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「私が“送った”子たちは全て覚えています。
 いつか私の命が尽きる時、
 私は魔界へ堕ちるのでしょう。されど」

 彼は、言うのだ。

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「それでもこの理想だけは、
 絶対に叶えてみせるのです」

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「絵空事の王よ、
 貴方が私を邪魔するというのなら、
 私は貴方の敵になりましょう!

 シャルティオは、
 この魔局を何とかしようとしている。
 魔局長の行う非道な実験を、
 止めたくて、止めたくて。

 理想を聞いた。信じてくれと言った。
 しかしこの様子では、説得なんて無理そうだ。

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「……ルフィード。
 お前は、どうしたら止まってくれるんだ?」

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「私を止めたいのならば、
 私を殺せば良いでしょう、陛下。
 陛下の掲げる理想と未来の為に、
 この私を犠牲にしてご覧なさい!

 魔局長が、両腕を広げた。
 シャルティオはその場に固まる。

 説得は無理。されどこの研究を止めたい。
 ならば力づくしかない。
 誰も犠牲にならない革命なんてもの、
 存在しないのは分かってる。

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「…………キィル、ローリア」

 シャルティオは従者と王宮魔導士に目配せし、
 す、とダガーを構えた。
 青の瞳に、覚悟が宿る。

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「……分かったよ。
 ならば僕は僕の理想の為に、
 貴方を全力で倒す。
 勝った方が正義だ!」

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「──僕の為の礎となれ、
 ルフィード・ヴァーデン!」

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「あっはっは!
 望むところですよ、絵空事の王!
 貴方の理想なんて叶いません」

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「世界を変えるのは
 信用ならない貴方ではなく、
 この私であるべきなのですから!」

 魔局長の身体の紋章が、光を放った。

 正義は一体、何処に在る。
 ふたつの理想がぶつかり合うならば、
 勝った方こそが“正義”と成る。

 魔導王国の片隅で。
 今、ひとつの戦いの火蓋が、
 切って落とされた。