女はじっとあなたの言葉を聞いて、それで、
ふ、と何かを思ったようにあなたに視線を向ける。

「……あのさ。
誰かのために生きるって、なんか難しいと思わない?」

「ああごめん、急にさ。でも……ウチ思うんだよね。
期待されて、期待に応えようと頑張るじゃん?
勿論そりゃ、応えるのって義務じゃないけど……出来れば応えたい、じゃん?」
自分の指先でもてあそぶ髪の毛が、ゆるく揺れる。
その指先は、癖のように、逃げ道のように、同じ束を何度も撫でていた。

「誰かのために頑張るのって、嫌いじゃないんだよ。
でもさ、その“誰かに似合う自分”を続けなきゃいけないのが、ちょっと怖い」

「ウチ、そんな器用じゃないし。
似合う自分のサイズ、毎回ぴったりじゃないんだよね。
女はくすっと笑う。
その笑いは軽いのに、どこか無理に持ち上げた声色だった。
そして、あなたを少し覗き込む。

「クロは、自分の価値ってどこに置いてる?
……他人をどれだけ、自分の価値に使ってる?」
──あなたは、自分の価値に他人の評価をどれだけ使っていますか?
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「“誰かのために”動こうとするとさ、
結局ウチ、自分がしんどくなっちゃうんだよ。
都合よく使われてる感じ、というか……」

「でも逆に、全部“自分のため”だけにすると、
それはそれで空っぽになるんだよね。
なんかこう……味のしないガムを噛んでる感じ」
だから、と言いかけた口を噤む。
ちょうどいい言葉を探す様に視線が白い天井を揺れて、
ああ、と小さな声を零して、ようやくあなたに視線が戻った。

「……誰かのために頑張るのって、
“その人に向けた”自分の“好き”って感情なのかもな」
それで、少し照れくさそうに笑う。

「ウチは、その“好き”が続けられるかが自分にとって大事……だと思う。
相手が好きって事……じゃなくて、好きって感情を持てる自分のほう。
“好きを与えられる自分”、が一番価値がある、と思う……のかな」
うまくまとまらないや、なんて苦笑気味に言った後、
息を細く吐き、椅子にもたれ直す。

「……ま、そんなに上手くいかないんだけどね、現実は」