部屋は白く、空気も静かで、
逃げ場がないほどに真っ直ぐな問いだけが残った。
フェルヴァリオはふと、遠い昔の光景を思い出した。

(……生まれた時のこと。)
白い。
白い。
あまりにも白い。
部屋の白とは違う。
“世界そのものが白く塗りつぶされた”ような景色だった。
意識の底で、白い光がひらりと揺れる。
白くて、白くて、何一つ輪郭を持たない世界。
その真ん中にいた“誰か”。
女でも、男でもない。
形は揺らぎ、輪郭は曖昧で、光の中に立つ影だけが、そこにあった。
けれど──
同じ竜種ではある。
そう、はっきりわかった。
血で、魂で、呼吸の奥で、「ああ、知っている」と感じてしまうほど
根源的な“懐かしさ”があった。
遥か昔から知っていて、生まれる前から隣にいたような。
家族よりも古く、名前よりも深く、
存在そのものが“記憶”に刻まれているような。
その人影は、まだ言葉にもなっていない声でフェルヴァリオに呼びかけた気がした。

──名前を。
記憶の水面が揺れる。

箱がひとつ。
サイコロのように、ころころ転がって。
その先に自分は──いた気がする。

(……誰?あれは誰なんだ?)
白い箱が、ころころと転がる。
まるでサイコロのように、この世界へ放り込まれた運命を決めるみたいに。

白い花が咲き乱れる。
雪よりも淡く、炎よりも儚く。
匂いもないはずなのに、どこか温かい香りが胸に残った。
白い景色の中で、はるか遠くに──
黒い竜がいた。
大きくて、恐ろしくて、しかしどこか見覚えのある影。
それは守っていたのか、見送っていたのか、あるいは別れを告げていたのか。
フェルヴァリオの記憶は、そこで断ち切れる。
断ち切られたというより、誰かにそっと仕舞われたような感覚で。
唐突に風が吹き抜けるように景色が変わり、
次に覚えているのは“どこか遠い世界”の冷たい空気。
紅葉のじゅうたんに寝転がっていた。
赤、黄金、茶。
その色彩だけは妙に鮮やかに残っている。

(そうだ……オレが起きたのは、秋だった)
自分が何者かも分からず、
ただ紅葉の香りだけが“最初の現実”としてフェルヴァリオは、ゆっくりと息を吸う。