Chapter01-02

記録者: プレイフル (ENo. 63)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

クリックで開閉
icon
「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

icon
「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

icon
「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


icon
「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

icon
「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


sample

icon
「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

icon
「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


icon
「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

icon
「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

icon
「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

icon
「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


icon
「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



icon
「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

Answer
icon
「『観測結果が不明瞭』、ね。
あっはっは、貴方の言にどれほどの信憑性があるかはさておき、貴方の質問にはお答えしましょう。この空間で許されているのはそれぐらいなものですしねー。
ということで私の暇つぶしにお付き合いください……いえ、この場合付き合わされているのは私の方ですかね?」

icon
「鶏が先か卵が先か、会話の主導権とはかくも不安定で移ろい激しいもの。
果たしてこの場の主導者は、先んじて問いを投げかけてきた貴方か、はたまた問いへの答えを語り続けている私か、それともいまだ顔も名前も知れないこの空間の主か……」

icon
「なーんて、ただの戯言ですよ。
あっはっは、楽しいですねー。何の意味も意義もなく、ただ頭に浮かんだ言葉をやたらめったらに吐き出し続けるのは。
さながら……っと、ここで一旦止めておきましょうか。脱線の末に別レールに乗り移ってしまうのは、私としても望ましくないですからねー」


icon
「とは言ったものの、質問に答える前に一つ疑問を挙げましょうか。
『質問に質問で返すなー』なんて怒られるかもしれませんけどねー。誰に? さあ?」

icon
「とはいえ極めてシンプルな質問ですよ?
すなわち『普通とは何か?』、あっはっは、哲学ですねー」

icon
「私見ですが、『普通』を定義するのは多数派、そして客観です。

例え話をしましょう。多くの人が目玉焼きに『醤油』をかけて食べるのに対して、私は『マヨネーズ』をかけて食べるとします。
私はこの事実を知ることで、世間一般的には『醤油』が『普通』であり、『マヨネーズ』は『普通ではない』と認識できます。

これが一人の認識から集団、世界と広がっていくことで『普通』と『異常』が区別されていくのです」


icon
「あ、ちなみにプレイフルさんは目玉焼きに『醤油』派です。
どうです? 『普通』でしょう? でもこれだけで私という人間を『普通』と断言するのは難しいものです。
それは何故か? 答えは『人は複数の視点から物事を判断する生き物だから』」


icon
「先ほどは目玉焼きを例に挙げましたが、例えばハンバーグ、例えば焼き魚であればどうでしょう?
全部一致する相手は限られるでしょうが、それでも同じように『多数派』と『少数派』は自然と出来上がるものです。
ではさらに広げていきましょう。趣味は? 特技は? 住所は? 家族構成は? 髪型は? 身長は? 好きなタイプは?
エトセトラエトセトラ、挙げたらキリがないのでここらで止めておきますかー」

icon
「というわけで、最終的には総合評価に落ち着きます。
『普通』な側面が多ければその人は『普通』、逆だったら『異常』。
ここからさらに量だけじゃなくて質もかかわってきますけど……これ以上は冗長になるので割愛しまーす。

まーようするに、私が言いたいことは単純です」


icon
『普通』がどうこうって普通に面倒じゃありません?
あっはっは、自分で言っといて身も蓋もなーい。でもこればっかりはしょうがないですねー。
多数決だけならまだしも、口では客観と言っておきながら偏見交じりの主観だった、なんてのもザラですしー?」


icon
「ということで貴方の問いかけに話を戻しまして──『私の世界の普通』についてお答えしましょう」

icon
「あっはっは、『話を長引かせておいて結局同じだろう』とか思いましたー?
いえいえ違いますとも。『私の世界』っていうのは『私から見た私の世界日常という意味です。
客観ではなく主観、話に偏見や誤認が混ざることもあるでしょう。まー私だって人間ですし?」

icon
「ですので、『私の世界日常』が普通かどうか、
それは貴方が判断してください

icon
「偏見交じりでも構いません。貴方の主観で決めてください。
というかそれしかなくないです? 比較対象なんていないんですし。
サンプルが足りないよサンプルがー。どうせだったら複数人連れてくるべきでしたねー、あっはっは」


icon
「さて、一つ前の問いかけでも答えた通り、私はホワイトハッカーとして活動しています。趣味と実益を兼ねて」

icon
「時代とともに科学は発展を遂げ、人類の技術はインターネットから一歩先の領域へと進みました。
その"電脳領域"は、さながら現実世界を逆さまにしたような有様。
頭上を見上げれば乱立した企業のビル群、足元を見下ろせば果てしなく広がる青空。
現実の体とアバターをさながらマリオネットが如き"命綱"で繋ぎ止めていなければ、終わりなきソラの旅へご招待ー」

icon
「とまあこのように、まだまだ危険が危ない代物でして、その認知と領域への侵入が許されたのは一部の企業とその関係者だけなものでしたが……。
まーその辺りは貴方の今後の質問次第でお答えしましょう」


icon
「私が活動していたのはそれよりももっと浅瀬、通常のフルダイブ装置でアクセス可能な電脳空間になります」

icon
「あっはっは、いやーあの頃はよかったですねー。
ある企業からシステムの脆弱性の発見と修正を依頼されたかと思えば、犯罪組織からその企業へのクラッキングを依頼されたり。
ある時はネット上で声をかけられて義賊みたいな真似をしたこともありましたねー、こっそり一部の資金を横領したりもしましたが」

icon
「アバターも今のこれとは別のものを使っていましたし、場合によっては使い捨てたりもしてました。
足が付くのも事後処理が大変ですからねー。
『バレなきゃ犯罪じゃない』、いい言葉です」


icon
「とはいえ最近は電脳空間にも……っと、ここから先はまだシークレットです」

icon
「まーこんなところでどうでしょう?
貴方の想定していた答えとは違ったかもしれませんが、先に述べた通り『普通』を定義するのはいささか難解なことですから」


icon
「ということで、以上を以て『私の世界日常』についての回答とさせていただきますねー」