
「『観測結果が不明瞭』、ね。
あっはっは、貴方の言にどれほどの信憑性があるかはさておき、貴方の質問にはお答えしましょう。この空間で許されているのはそれぐらいなものですしねー。
ということで私の暇つぶしにお付き合いください……いえ、この場合付き合わされているのは私の方ですかね?」

「鶏が先か卵が先か、会話の主導権とはかくも不安定で移ろい激しいもの。
果たしてこの場の主導者は、先んじて問いを投げかけてきた貴方か、はたまた問いへの答えを語り続けている私か、それともいまだ顔も名前も知れないこの空間の主か……」

「なーんて、ただの戯言ですよ。
あっはっは、楽しいですねー。何の意味も意義もなく、ただ頭に浮かんだ言葉をやたらめったらに吐き出し続けるのは。
さながら……っと、ここで一旦止めておきましょうか。脱線の末に別レールに乗り移ってしまうのは、私としても望ましくないですからねー」

「とは言ったものの、質問に答える前に一つ疑問を挙げましょうか。
『質問に質問で返すなー』なんて怒られるかもしれませんけどねー。誰に? さあ?」

「とはいえ極めてシンプルな質問ですよ?
すなわち『普通とは何か?』、あっはっは、哲学ですねー」

「私見ですが、『普通』を定義するのは多数派、そして客観です。
例え話をしましょう。多くの人が目玉焼きに『醤油』をかけて食べるのに対して、私は『マヨネーズ』をかけて食べるとします。
私はこの事実を知ることで、世間一般的には『醤油』が『普通』であり、『マヨネーズ』は『普通ではない』と認識できます。
これが一人の認識から集団、世界と広がっていくことで『普通』と『異常』が区別されていくのです」

「あ、ちなみにプレイフルさんは目玉焼きに『醤油』派です。
どうです? 『普通』でしょう? でもこれだけで私という人間を『普通』と断言するのは難しいものです。
それは何故か? 答えは『人は複数の視点から物事を判断する生き物だから』」

「先ほどは目玉焼きを例に挙げましたが、例えばハンバーグ、例えば焼き魚であればどうでしょう?
全部一致する相手は限られるでしょうが、それでも同じように『多数派』と『少数派』は自然と出来上がるものです。
ではさらに広げていきましょう。趣味は? 特技は? 住所は? 家族構成は? 髪型は? 身長は? 好きなタイプは?
エトセトラエトセトラ、挙げたらキリがないのでここらで止めておきますかー」

「というわけで、最終的には総合評価に落ち着きます。
『普通』な側面が多ければその人は『普通』、逆だったら『異常』。
ここからさらに量だけじゃなくて質もかかわってきますけど……これ以上は冗長になるので割愛しまーす。
まーようするに、私が言いたいことは単純です」

「『普通』がどうこうって普通に面倒じゃありません?
あっはっは、自分で言っといて身も蓋もなーい。でもこればっかりはしょうがないですねー。
多数決だけならまだしも、口では客観と言っておきながら偏見交じりの主観だった、なんてのもザラですしー?」

「ということで貴方の問いかけに話を戻しまして──『私の世界の普通』についてお答えしましょう」

「あっはっは、『話を長引かせておいて結局同じだろう』とか思いましたー?
いえいえ違いますとも。『私の世界』っていうのは『私から見た私の世界』という意味です。
客観ではなく主観、話に偏見や誤認が混ざることもあるでしょう。まー私だって人間ですし?」

「ですので、『私の世界』が普通かどうか、
それは貴方が判断してください」

「偏見交じりでも構いません。貴方の主観で決めてください。
というかそれしかなくないです? 比較対象なんていないんですし。
サンプルが足りないよサンプルがー。どうせだったら複数人連れてくるべきでしたねー、あっはっは」

「さて、一つ前の問いかけでも答えた通り、私はホワイトハッカーとして活動しています。趣味と実益を兼ねて」

「時代とともに科学は発展を遂げ、人類の技術はインターネットから一歩先の領域へと進みました。
その"電脳領域"は、さながら現実世界を逆さまにしたような有様。
頭上を見上げれば乱立した企業のビル群、足元を見下ろせば果てしなく広がる青空。
現実の体とアバターをさながらマリオネットが如き"命綱"で繋ぎ止めていなければ、終わりなきソラの旅へご招待ー」

「とまあこのように、まだまだ危険が危ない代物でして、その認知と領域への侵入が許されたのは一部の企業とその関係者だけなものでしたが……。
まーその辺りは貴方の今後の質問次第でお答えしましょう」

「私が活動していたのはそれよりももっと浅瀬、通常のフルダイブ装置でアクセス可能な電脳空間になります」

「あっはっは、いやーあの頃はよかったですねー。
ある企業からシステムの脆弱性の発見と修正を依頼されたかと思えば、犯罪組織からその企業へのクラッキングを依頼されたり。
ある時はネット上で声をかけられて義賊みたいな真似をしたこともありましたねー、こっそり一部の資金を横領したりもしましたが」

「アバターも今のこれとは別のものを使っていましたし、場合によっては使い捨てたりもしてました。
足が付くのも事後処理が大変ですからねー。
『バレなきゃ犯罪じゃない』、いい言葉です」

「とはいえ最近は電脳空間にも……っと、ここから先はまだシークレットです」

「まーこんなところでどうでしょう?
貴方の想定していた答えとは違ったかもしれませんが、先に述べた通り『普通』を定義するのはいささか難解なことですから」

「ということで、以上を以て『私の世界』についての回答とさせていただきますねー」