
「その音、不快だわ」
そんなことを口にする割には、姿勢は美しさを保とうとする。
無意識。シャッター音に合わせて身を動かしては、レンズへと視線を向けて。
どういう角度で、どう撮られるのが最適か、理解しているかのようだった。

「……はあ」
こちらもまた、先ほどと同じようなため息をこぼす。
観察対象と呼ばれれば、露骨に顔を顰めて。このまま黙りこくったっていいのだけど。
現状、どうしたらこの場所から出られるのかがわからない。
何かしらの行動がトリガーになるのなら、アクションを起こさないのはむしろ都合が悪いか。
常々苛立ちに飲まれ不機嫌そうな女であるが、頭の中は意外にも、至極冷静でいる。

「こちらも概ね、アナタの世界と変わりない」
特段やることも思いつかないし、無言で見つめ合うのは気色が悪いし。
だから、答えてやることにした。記憶の中の、綺麗そうな部分だけを慎重に切り取って。

「ただ、自立稼働人形とやらはいないかも。
人間が起きて、朝食を用意して、食べて、出勤して、仕事や学業に取り組むの。
あと、休日は2日かな。私は3日の方がいいと思うけれど」

「仕事に就いている者は会社へ。
義務教育を終えていない子供は学校へ。
それぞれ家庭があって、暮らしがある。それが――普通」

「もちろん、これらは一般的な人間が考える標準。
変な産まれの者もいるし、これが普通にならない例もいくつかある」

「そもそもあの男も私も、普通からは逸してるのよ……」
一拍置くように、再びため息。

「はい……それで、聞き返すけれど、何か参考になった?」
何かを断ち切るように言葉を区切り、投げ返す。
強引だが、言葉のキャッチボールに応じる意思はあるらしい。
……とはいえ、この無意味なお喋りはいつまで続くんだという疑問はある。
仮にこの問い掛けが100まで続いたら、いよいよ発狂するかもしれない。
そうして暴れた末に、対面のレンズが割れないことを祈るばかりである。