
「俺の価値、かあ」
ぼそり、青年は短く言葉を呟く。
彼の対話相手は今回に限って多くは語らなかった。
そう言った考え方が相手にはないか……
またはそう言った考え方自体が不要なのだろう。
なんであれ、
相手から問いを投げ渡された青年は静かに息を吸った。

「弟の代わりになれる、とこかな」

「あいつの双子の兄として生まれてこれたこと……」
「やろうと思えばきっと、誰にも見分けられないくらい
そっくりな偽物のあいつになれるとこ」

「それってたぶん、いいや、きっと
俺の生きてる世界で唯一俺だけができることだ」
明るく笑って偽ることもせず、
そして嘲笑交えて巫山戯るようなこともない。
ただ淡々とこれが自分の価値だと、
頼まれた商品を棚から出す店員のように
静かでなんの感情もない顔で言葉をテーブルに並べていく。

「俺とあいつに力の差なんてないし……いや、
俺が感覚でやってることを弟は全部頭で考えてやれてる」

「だからあいつの方が俺よりずっと賢いんだろうから」
「より優れた方を残していける」
誰にも見分けられない偽物になれるほど彼と弟は似ているのだろうか。
それでも本人たちにとっては明確な違いを感じるのかもしれない。
どちらがより、と自分と相手を見比べて、
青年はこっちの方が劣っていると自身の方を投げ捨てている。

「だから俺は弟に似てる自分を肯定する」
「弟よりも劣ってる自分の力を肯定する」

「あいつの代わりになれる俺は無価値じゃない」

「あいつの、代わり、を……」
ふと、言葉を詰まらせて空間に沈黙が流れた。
青年は言葉を紡ごうとしているようだったが、
口から漏れ出たのは言葉ではなく、苦しげな息遣いだけだった。

「……ああ、クソ……」
やっとの思いで絞り出されたのは短い悪態の言葉。
少し震える唇で紡がれた言葉は微かで弱々しい。

「変なこと、聞くなよな」
「お前が変なこと、聞いてくるせいだ」
青年は何かを堪えるように途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
対話相手は相変わらず無表情のままだろう。
ありきたりな慰めの言葉が飛んでくることは、きっとない。

「…………。」

「……はー、やめやめ!
もうおしまい!」

「今のが最後の質問だったんだろ、じゃあこれで終わり!
俺もう質問に答えるのも飽きたし、
もう何聞かれたって答えてやんねー!」
長い沈黙の後パッと青年は顔を上げる。
作られていたのは最初のうちに見せていた人懐っこい笑顔だった。
終わりだというように青年はもう、そっぽを向いている。
なんの説明もなく始まった対話は、
こうして唐突に言葉が切れて終わっただろう。