Chapter01-01

記録者: 夏揺 響 (ENo. 56)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
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「……何が起きた?」

たしか自分は、直前まで激務の疲れで
仮眠をとっていたはずだ。
だから、いつもの武装を解除した軽装。
その状態は仮眠前と変わりなく。

全く知らない白い部屋。椅子ひとつだけ。
幸い体を動かせる状態だ、
軽くひととおり動かしてみるも不調は見られない。

……状況と自分の立場的に真っ先に誘拐等を疑ったが
それにしては手口が鮮やかすぎる。
武人の自分に何一つ手傷等加えることなく
目を覚まさせる間もなく拉致してくるなど、
相当の手練れ、もしくは想定した前提から間違っているのか。

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「参ったな、これは」

不可思議で、嫌な予感のする状況だった。

しかしそこで
仮眠くらいでは疲れが取り切れていない、と感じ溜息をつく。
疲労が溜まったままでは有事となってもまともに動けまい、
周囲を警戒はしつつ、椅子に座ることにした。
その瞬間、気づいたのだ。

無かったはずの椅子に、居なかったはずの人物が座っていると。
擦れるような音。観察という単語。
否応にも緊張が高まる。
ともあれ声掛けは返す。努めて平静に。
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「……済まないが」

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「そのように貴殿からほぼ説明できない状況では
私も貴殿に話せることが少ない。
観測というのもよく理解できぬが、
私の目に貴殿が映るか、という問いであれば答えは是だ」

慎重に。
立場故、この蝉の青年は問答をそう運ばねばならない。
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「……先に断っておこう。
私は、私に話せる範囲しか
貴殿には伝えられない。そのうえで」

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「私の名は、夏揺 響ナツユラ ヒビキという。
それだけであれば、
"私"の定義は伝えられる」

この状況が意図されたものでも、そうでなくとも。
名を知られて困ることはないだろう。