音楽家からの質問を答えおわり、空間がぼやけていくのを見ていた。
これで夢から覚めるのだろうと、目をつむり、その時を待っていたが・・・
暫くして目を開けると、そこは見慣れない景色の中だった。
「っ・・・!」
妙に鮮やかな草花がどこまでも生い茂る広い空間。
それを囲む、見上げても果てが見えないほどの壁。
壁はまるで巨大な繭のように、繊維状のものが幾重にも重ねってできている。
足元には先ほどまで座ったものと同じ白い椅子が置かれていた。
その椅子に向かい合うように、黒い椅子が、石造りの門の中に置かれていた。
門の中は暗く、摺りガラスでもあるかのように椅子の輪郭はにじんでいた。
(まだ夢は終わっていないのかな・・・・)
恐る恐る白い椅子に座ると、にじんだ空間の先で白い何かが黒椅子の上に現れた。
「君が来るのを待ってたよ」
「ここってきれいなところでしょう?穏やかで、静かで、安全な感じ!」
子供特有の高い声が遠くから響いてくる。
かなめは少し、嫌な予感がした。
「だからさ、聞いてみたいんだ。」
注意!!内面の深い部分に関わる、重く長い内容です。
読む際はその点について予めご了承ください。(内容追記予定)
【特別質問1】元居た世界に帰りたいですか?理由も含めて答えてください。
答えないことも可能です
「きみはさ、元の世界に帰りたい?」
「きみが今いる世界じゃなくて、その前にいた世界に」
「理由とかも聞きたいな」
「あ、答えたくなかったら答えなくてもいいよ!」
こちらから見える影はただ丸く黒椅子の上に収まっている。
それはピクリともせず返答を待っていた。
なぜこれは誰にも話したことのないことを知っているのだろうか。
(この空間もあれによるものなら、考えるのは不毛だろうな)
「・・・」
「帰りたいとは思わないよ」
「帰ったところで、住んでいたところも、言葉も、もう覚えていないから」
「帰るメリットがないよ」
「わたしは今いる世界でずっと暮らしたい」
「これでいい?」
時折そよと風が草を撫でていく。
小鳥だろうか、囀るような声もした。
しずかに陽が照らす中、にじんだ影は少し揺らいだ。
「そっか。そういう考えなんだね。」
「なるほどね」
【特別質問2】復讐したいと思いますか?理由も含めて答えてください。
答えないことも可能です。
「じゃあ、次の質問ね」
白い影からまた、弾むような声がした。
「きみは、復讐したいと思う? 両親を殺した相手を」
「あ、これも答えたくなかったら無しでもいいよ」
息が詰まった。
「・・・・・・・・・・」
ゆっくりと息を吐き、そして吸い込んだ。
「・・・したいと思わないよ」
「どこにいるか、生きてるかもわからないんだし」
「元の世界に戻る気がないからね」
「それに、悪いのはわたしであって、相手じゃない」
「・・・相手は、悪くない。」
「生き物は、みんなほかの生き物を食べて、生きているから」
「わたしも、相手もその輪の中にいるだけ」
「悪いのは、わたし。」
「・・・相手にとって大事なひとだっているだろうし、
だれかにとって相手は大事なひとかもしれないし、」
「良く知らない相手に心を燃やすより、自分に燃やしたほうが、楽」
「自分は自分から逃げられないから」
「でも、そういうのも疲れる」
「何しても過去は変えられないから」
「だから、復讐とか多分ない」
しばらく、草花の揺れる音だけがした。
「そっか。復讐は考えていないんだね」
【特別質問3】では心の中に何を感じていますか
沈黙ののち、また白い影から声がした。
「遺された物があるから生きる、満たせない形を忘れないために生きると君は言うけれど」
「本当に怒りや恨みを全く感じないのかい?」
それは弾むような声ではなく、低く、ゆっくりとした口調に変わった。
「相手への復讐は全く考えていない」
「・・・過去の出来事は変えられないし、それは、私のせいで、起こったこと」
「怒るとか、恨むとかじゃなくて、・・・わたしは、わたしに釘を刺してる」
「・・・でも、その形は自暴自棄の形じゃないと思う。」
「うまく言えないけど、その過去があるからこそ、せめて、手の届く範囲で、
同じようなことが、・・・っ起こらないようにって、しなくちゃって、思ってる、
かも、しれない」
「同じ景色を、見たくない」
「・・・うん」
「同じようなことが、起きてほしくない」
「私の周りには、やさしいひとが、たくさんいるから」
いつまにか、手首をぎゅっと握りしめながら答えていた。
「過去は変えられないけど、見る場所はたくさん、あるはずだから、色々なことが。」
「ふむ。・・・君は恨みや怒りを相手や自分に向けるのではなく、
忘れちゃいけないと、同じことが起こらないようにしなくちゃと、思っているんだね。そして過去以外にも、目を向けようと思っている」
白い影は相手の言葉をゆっくりと、なぞるように言った。
続く