観測が終わる、トイカケが終わる。
気付けば、見慣れた執務室。
刹那の夢のようなそれを、思い返していた。
問われたこと。
名前、自己定義、思考実験。
譲れないもの。己の価値。

「…………」
瞑目していれば、声がした。
馴染んだ声だ。誰よりも身近な人。

「シャル様、お疲れですか?
少し休まれては…………」

「……………………」
「…………キィラン」
青の瞳は真っ直ぐに、己の従者を見遣った。

「……お前は、私の何処に価値を見出す?
“シャルティオ王”か?
それとも“シャルティオ”個人か?」

「変な夢でも見られましたァ?
問われれば、はい、答えますが…………」
「…………以前に言いましたよね、陛下」

「──私は、シャル様の治める
魔導王国をこそ、見てみたい、と」
それが答えですとキィランが告げる。

「“シャル様の治める魔導王国”で
なくてはダメです。
貴方様はこの王国に変革をもたらせる、
唯一無二の御方にございます」

「何を迷われているのかは知りませんけれど……
この際、ひとつ明確に申し上げておきますね」

「私は、“王ではないただのシャルティオ”に、
価値を見出しておりません」

「“本当の自分”を見てもらいたいのであれば、
それこそ“お義父さん”や“義兄さま”にでも、
甘えたらどうですか」
「もっとも。今は、かの世界に行けませんけれど」
ひらり、キィランが手を振った。

「だって私、従者ですから〜」

「……………………」
「……そうだね、キィラン」
返すシャルティオの声音、微かな寂しさ。殺した。
されどこれは自分で選んだ道だから。
困難にも逃げず、這いつくばってでも進むと決めた道だから。
弱い気持ちは呑み込んで、溶かし殺した。

「…………いきなり、
変なことを聞いて済まなかったな」
「…………これからも、
私と共に歩んでくれるか?」

「──仰せの通りに、我が君!」
王の足元、従者が傅く。
魔導王国の王と従者。これが今の関係。
だけれどシャルティオは知っている。
この従者はあんなことを言っているけれど、
王の多少の無茶は黙認してくれること。
シャルティオの革命とは関係のない過去の話。
友の為に手を伸ばして傷付いたこと、
その“優しさ”を、責めるではなく認めてくれたこと。
キィランは、打算だけで動いて決断するとは限らないこと。
知っている、から。

「………………」
王の青玉石の瞳が従者を見れば、
従者の夜明け色が見つめ返した。
だから、だからこそ信頼しているんだ。
そんなお前だからこそ僕が間違えたら止めてくれるし、
僕の意向もある程度は尊重してくれる。
お前と共に歩む未来ならば、きっと。
瞑目し、玉座を立った。

「……私は少し疲れた。
これより休憩に入る。
キィル、お茶を用意してくれるか?」

「仰せのままに!」
先に出た従者を見送って少ししてから、
王は執務室を出た。
思考の続きはまた後で。
今はとりあえず、お茶にしよう。