私は、あれからようやく止まった涙の流れた跡を、余った袖口で拭いながら、静かにあなたの話を聞いていた。

優希
「存在価値、ね…」

優希
「聞いててわかるだろう?ついこの間無くなったばかりだよ。」
そう、おそらく、こちらの嗚咽なんかは向こうには聞こえちゃあいないかもしれない。それどころか、こちらの姿がハッキリ見えているかすら曖昧なのだから。
一つの間を置いて、また私は口を開き、目の前のレンズに向かって話し始める。

優希
「私の、私の中での存在価値はね。教授や、博士…お父さんの優秀な右腕であり続けることだった。」

優希
「1番信頼ができて、そして1番目標になる存在。そんな人たちの右腕だなんて、とても光栄じゃないか。けれど…。」
喉が焼けるように熱くなる。目が苦しいと悲鳴を上げる。けれど、それを全て、喉の奥に押し込んで、飲み込んで。腹の底に、見えないように隠して。

優希
「今はもう………そうじゃない。」
………こんなに苦しいなら、心が無くなってしまえば、どれだけいいだろうか、なんて、何度思っただろうか。
このひどく痛む胸に大きな穴が開いてしまえばいいと、一体何度思っただろうか。
けれどもこの胸は、軋みながら今も尚脈動を続けている。
脈動がうるさいぐらいにあたまに響く。
呼吸はしているはずなのに、胸が重く詰まって、苦しい。
身体が重くて、このまま地面に倒れこんでしまいたいという衝動を無理矢理納めて、再び足を組み直す。
………私はどうするべきだったのか。
終わりのない質問が、やたらと脳内を駆け回る。
そんな考えを押し殺して、ようやく重い口が開く。

優希
「2人が居なくなった今、私の存在価値は無も同然。ここで野垂れ死んだって誰も悲しみやしないさ。」
絞り出すように出した声が、そいつに届いたかどうかはわからない。
ただ、無様なガキ同然なこの姿が彼に見られていないことを、心のどこかでひっそりと願っていた。