Chapter01-05

記録者: シルヴィレント (ENo. 87)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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  ──カシャ


シャッターの音の後、あなたを向いていたレンズがふと向きを変える。
何か未知のことを認識した様子で、その後にまたあなたにひとみが向いた。

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「観察対象、最終質問を提示します」


この対話の終端が近いようだ。
不思議な白い部屋での対話は、何の説明もなく始まり、そして終わるらしい。

奇妙な観察者は感慨もなく告げ、一拍。

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──あなたは、何をもって“自らの存在に価値がある”と判断しますか?


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「それは役割でも、使命でも、功績でも構いません。
 また、価値は不要であるとする見解も有益な観測結果となります。

 あなた自身が、どの基準で己を“肯定”し、
 何をもって“無価値”とせずにいられるのか。

 その価値に他者を如何にして組み込んでいるのか、
 その内的構造を、開示してください」


──あなたは自らに〝どのような価値〟があると認識していますか?

 
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「当機は、あなたの答えを推論する事はできても──
 代弁する事はできません
 故に此度は、 あなた自身の言葉で語られることを要求します」
Answer
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「……………………」

 沈黙。沈黙。しばらく、ずっと。

 己のこれまでを思い返す。
 才能がない自分に甘んじて、努力を怠った日々。
 王宮魔導士の地位に胡座をかいて、
 魔導王国の闇に影に、一切、目を向けることをしなかった。

 そんな愚かな自分の陰で、
 あの子は、弟は、血の滲むような努力をしていたのに。
 怠惰に呑まれた己は結果として、
 大切なものを失った。
 きちんと努力を重ねてさえいれば、守れた命だ。

 今はあの頃よりも、
 少しは精神的に成長出来たろうとも思う。
 されど、己を己たらしめる、
 “絶対的な価値”は未だ、明確には見つからず。

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「…………そうだね」

 しばらくして、おもむろに口を開いた。

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「私はアルヴィレントの兄だ。
 それは、私にしかない、私だけの価値だよ」

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「王宮魔導士も雷使いも、
 私の国には沢山いる。
 私より優れた使い手も、ごまんとね」

 血を吐くような努力を重ね、
 天才の弟に並び立てるようになれども。
 青年の自認は、“所詮は凡才”だ。
 彼の自己評価は、自己肯定感は、低い。

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「でも…………
 “アルヴィレントの兄”は私だけだよ。
 これは、私にしかない価値だ」

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「他の価値も見つけられたら良いけれど……。
 今はまだ自分探しの途中なんだ、
 とでも、答えておこうかな」