
「…………思考実験、か」
トイカケに、青年はしばしば思案顔。
助けるか否かは相手にも、状況にも依る。
さて、どう答えようか?

「…………助けを求めているのが弟ならば、
アルヴィならば、
私は問答無用で助けに行くよ。
それで私が死んでも構わない」

「あの子の存在が、私の理由だ」

「まぁそのような自己犠牲めいたことをすれば、
あの子は私を許さないだろうし。
そんなことは起こらないに越したことはないけれど」

「私はもう……
誰も身内を失いたくないんだよ」
瞑目。
否応なく脳裏に浮かぶは、ひとつの過去。
己の無力に甘んじた。停滞した現状を良しとした。
その結果として、守れず散らした花があった。

「アルヴィは難儀な体質を持っている。
だから私がその隣で、
“お兄ちゃん”として支えてやるのさ」
青年は、優しい優しい笑みを浮かべていた。

「…………で」

「その“困っている人”が、
アルヴィ以外だったら…………
って話なのだけれど」
非魔法民と仮定しよう、と青年は言う。

「………………」
「私は、自分の身を削ってでも、
非魔法民を助けたいとは思わないね」
難しい顔をしている。
非魔法民。つまりは
魔法を使えぬ人々に対し、
何か思うところがあるようだ。

「今のシャルティオ王は、
非魔法民の人権を保護する法を立てている。
魔導士と非魔法民の格差を埋めようと、
思考を巡らしておられるようだけど……」
頭では分かっている、分かっているんだ。
だから寛容になろうと努力はしている。
淡々と、ことばを投げた。

「……ひとつ。
そもそも私の立場である王宮魔導士は、
非魔法民を自由に虐げる側である」

「…………ひとつ。
私はかつて非魔法民によって、
大切で大好きな妹を惨い方法で殺された」

「『非魔法民に価値なんてない』なんて、
私はもう言うつもりはないけどさ…………」

「──非魔法民なんかの為に、
わざわざこの身を削ってやる道理もない」

「…………未だ、
その辺は割り切りきれないのさ。
差別的思考を許しておくれよ」
頭で思う“こうすべき”と、
実際に抱く感情は、乖離することがある。