Chapter01-03

記録者: シルヴィレント (ENo. 87)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「…………思考実験、か」

 トイカケに、青年はしばしば思案顔。
 助けるか否かは相手にも、状況にも依る。
 さて、どう答えようか?

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「…………助けを求めているのが弟ならば、
 アルヴィならば、
 私は問答無用で助けに行くよ。
 それで私が死んでも構わない」

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「あの子の存在が、私の理由だ」

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「まぁそのような自己犠牲めいたことをすれば、
 あの子は私を許さないだろうし。
 そんなことは起こらないに越したことはないけれど」

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「私はもう……
 誰も身内を失いたくないんだよ」

 瞑目。
 否応なく脳裏に浮かぶは、ひとつの過去。
 己の無力に甘んじた。停滞した現状を良しとした。
 その結果として、守れず散らした花があった。

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「アルヴィは難儀な体質を持っている。
 だから私がその隣で、
 “お兄ちゃん”として支えてやるのさ」

 青年は、優しい優しい笑みを浮かべていた。

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「…………で」

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「その“困っている人”が、
 アルヴィ以外だったら…………
 って話なのだけれど」

 非魔法民と仮定しよう、と青年は言う。

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「………………」
「私は、自分の身を削ってでも、
 非魔法民を助けたいとは思わないね」

 難しい顔をしている。

 非魔法民。つまりは
 魔法を使えぬ人々に対し、
 何か思うところがあるようだ。

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「今のシャルティオ王は、
 非魔法民の人権を保護する法を立てている。
 魔導士と非魔法民の格差を埋めようと、
 思考を巡らしておられるようだけど……」

 頭では分かっている、分かっているんだ。
 だから寛容になろうと努力はしている。

 淡々と、ことばを投げた。

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「……ひとつ。
 そもそも私の立場である王宮魔導士は、
 非魔法民を自由に虐げる側である」

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「…………ひとつ。
 私はかつて非魔法民によって、
 大切で大好きな妹を惨い方法で殺された」

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「『非魔法民に価値なんてない』なんて、
 私はもう言うつもりはないけどさ…………」

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「──非魔法民なんかの為に、
 わざわざこの身を削ってやる道理もない」

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「…………未だ、
 その辺は割り切りきれないのさ。
 差別的思考を許しておくれよ」

 頭で思う“こうすべき”と、
 実際に抱く感情は、乖離することがある。