
「……あんたも結局、人任せにはされてくれねえ、か。
人の話に答える気あるんだかないんだか」
半ば独り言のように零す。
その、瞬間。

「! おい待て、
俺から聞き出したことを
何に使うかくらいは……」
ぼやけていく部屋。
見逃そうはずもない。
とんぼの目は、良く見えるのだから。
けれど見えたところで抗えるわけでもない。
伸ばした手ごと、部屋もなにもかもが輪郭を失い、
途切れる。
……
…………

「……、っと」
はっと気づく。
そうだ、今も任務中だというのに
何を呑気にうたたねなどしていたのだ、自分は。
視界にちらと見える夜の色を認め、ああ、とため息をつく。

「……たまの寝落ちくらい、見逃してくださいよ?」
聴こえているだろうから、そんなことを独り言のていで言って
「仕事」に戻る。
あまりに短い夢でも、監視のない場で
己の本音を吐露した体験は、まるで

(マジで困ったもんだ)

(蜜のような味だった、なんておかしい形容だけどよ)
鬼蜻蛉は肉食である。
そして、その牙を求められているのだから。
……求めているのは、別に自分ではないけれど。

「気楽に言ってくれる」
自由がない身に、己で定義と価値を決めろだとか。
無責任で、気軽で、あまりにも、
夢のような話を、持ちかけるんじゃあない。
今日もまた、いつものように
過ぎていく消耗品でしかないんだから。
……それに。
敢えて最後まで言わなかっただけで、
今自分にないもので、もう手に入らないものであるというだけで、
自分の「価値」があるとしたらここなのだろうということも、
わかっちゃいるのだ。
……思い知らせるなよ。惨めになるだろ。

("翠"としての俺は死んだ。もういねぇんだ)
炎天の下、あの人と笑いあった黄昏の日は、遥か彼方。