
「おっと、そいつはちょいと難しいな」

「いや、故郷を思い出すのが辛いとかはないんだが……なにせ、もう何年もあちこち世界をさすらっているからな。
故郷の世界の思い出は今や遠く、良い悪いの区別もつかないってな」
ふむ、とタバコをくわえ、少し考えて。

「そいじゃあ、おまえの世界の話に沿って、俺の生まれた世界の話をしてみようじゃないか。
平均的な家庭がどんなだったかは知らねえから、まあだいたい俺の話をしてるんだと思いな」

「まず朝は日の出とともに起きる。季節によって日の出の時間は変わるから、具体的に何時みたいなのはないな」

「機械は、そこまで便利なのはねぇ。少なくとも飯は自分で作る。
これまで俺が訪れた異世界じゃ、わざわざ火を起こさずに食い物を温められる機械をごまんと見たもんだ、うらやましいね」

「んで、出勤は0秒。俺の実家はキャラバンでね、いや実家と言いつつ家じゃないのかよっと。今の笑いどころな?
実は生まれたときから『さすらいのボブ』だったってわけさ」
自分でHAHAHAとひとしきり笑った後で、話しを続ける。

「日がな一日馬に乗って、隊列組んで、村や町を渡り歩いて商売よ。
まあ俺は旅の間の見張りが仕事だったから、町で商売やってる間は実質休みだったがな。
不定休ってやつだ、都会の連中は週一で休んでる風だったかな? よくわからねぇや」
まあ俺の休みはもっぱら酒と博打、あとタバコを買うこと。
これは今もそうだな、と、胸ポケットから新しいタバコを1本取り出しつつ。

「惑星がどうとかは、異世界をさすらうようになるまで気にしたことなかったからな……
あ、でも月は一つだったぞ。世界によっちゃ二つとか三つとかあるんだよなあ」
1週間周期で毎日昇る月が変わる世界なんてのもあったぞと、一瞬異世界トークに逸れかけたが、
おっと俺の世界の話だったぜと気を取り直した。
旅人ってのは、旅の出発前より旅の途中の話をすることが多いもんでね。

「あとメジャーな世界トークっていうと、科学文明か魔法文明か、とかか?」

「んまあ、俺の故郷は科学文明寄りだと思うが、正直しょぼい。
都会で車を見たことはあったが、よその世界で見た同じようなもんと比べたらポンコツさ」

「魔法みたいなもんは、まあ迷信レベルだな。田舎だと本気で存在信じてた奴も多いが」

「俺? 俺はまあ、ガキの頃ちっとは信じてたりもしたがな。
異世界をさすらうようになってから、少なくとも俺の世界に魔法みたいのはなかったと考えてる」

「魔法がある異世界にたどり着いても、大概俺は欠片も才能がなかったからな」

「ふう、こんなところか。世界の話っつーかほとんど俺の話になっちまったな」
「まあ暇つぶしとしては上々だろ」
当人としては満足げな様子で、新しいタバコに火をつけた。