Chapter01-02

記録者: さすらいのボブ (ENo. 174)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

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「おっと、そいつはちょいと難しいな」

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「いや、故郷を思い出すのが辛いとかはないんだが……なにせ、もう何年もあちこち世界をさすらっているからな。
故郷の世界の思い出は今や遠く、良い悪いの区別もつかないってな」


ふむ、とタバコをくわえ、少し考えて。

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「そいじゃあ、おまえの世界の話に沿って、俺の生まれた世界の話をしてみようじゃないか。
平均的な家庭がどんなだったかは知らねえから、まあだいたい俺の話をしてるんだと思いな」


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「まず朝は日の出とともに起きる。季節によって日の出の時間は変わるから、具体的に何時みたいなのはないな」

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「機械は、そこまで便利なのはねぇ。少なくとも飯は自分で作る。
これまで俺が訪れた異世界じゃ、わざわざ火を起こさずに食い物を温められる機械をごまんと見たもんだ、うらやましいね」

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「んで、出勤は0秒。俺の実家はキャラバンでね、いや実家と言いつつ家じゃないのかよっと。今の笑いどころな?
実は生まれたときから『さすらいのボブ』だったってわけさ」


自分でHAHAHAとひとしきり笑った後で、話しを続ける。

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「日がな一日馬に乗って、隊列組んで、村や町を渡り歩いて商売よ。
まあ俺は旅の間の見張りが仕事だったから、町で商売やってる間は実質休みだったがな。
不定休ってやつだ、都会の連中は週一で休んでる風だったかな? よくわからねぇや」


まあ俺の休みはもっぱら酒と博打、あとタバコを買うこと。
これは今もそうだな、と、胸ポケットから新しいタバコを1本取り出しつつ。

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「惑星がどうとかは、異世界をさすらうようになるまで気にしたことなかったからな……
あ、でも月は一つだったぞ。世界によっちゃ二つとか三つとかあるんだよなあ」


1週間周期で毎日昇る月が変わる世界なんてのもあったぞと、一瞬異世界トークに逸れかけたが、
おっと俺の世界の話だったぜと気を取り直した。
旅人ってのは、旅の出発前より旅の途中の話をすることが多いもんでね。

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「あとメジャーな世界トークっていうと、科学文明か魔法文明か、とかか?」

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「んまあ、俺の故郷は科学文明寄りだと思うが、正直しょぼい。
都会で車を見たことはあったが、よその世界で見た同じようなもんと比べたらポンコツさ」

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「魔法みたいなもんは、まあ迷信レベルだな。田舎だと本気で存在信じてた奴も多いが」

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「俺? 俺はまあ、ガキの頃ちっとは信じてたりもしたがな。
異世界をさすらうようになってから、少なくとも俺の世界に魔法みたいのはなかったと考えてる」

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「魔法がある異世界にたどり着いても、大概俺は欠片も才能がなかったからな」


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「ふう、こんなところか。世界の話っつーかほとんど俺の話になっちまったな」
「まあ暇つぶしとしては上々だろ」


当人としては満足げな様子で、新しいタバコに火をつけた。