Chapter01-01

記録者: エマ (ENo. 98)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

クリックで開閉
あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


icon
「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

icon
「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

icon
「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

icon
「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

icon
「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

icon
「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

icon
「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


sample
icon
「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



icon
「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

icon
「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

icon
「…………。」

icon
「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
白い椅子に男は座り込んでいた。

細身で、歳の頃は20も半ばだろうか。随分くたびれたような男だ。
くすんだ色のコート、枯れたブーケを持っている。持っていた、事に出来ずに持っている。ブーケから花弁が落ちる。

男もまた、不躾に目の前のものを眺めていた。男の知る様々な世界の事が思い出され──そして霞のように消えて行った。
男はこういうものに慣れていた。あれがカメラである事も理解していた。カメラ男に恐怖も無ければ、興味も無かったが。

なもので、問い掛けに答えるまでにかなりの時間があった。いや、元々男はあまり口数の多い方では無かった。自己開示も好きじゃない。暫くカメラ男の朗々とした独り言が響いて、沈黙。それから漸く唇を開いた。
低い声だった。

icon
「……僕はエマと言う。けれど僕を識別しなくても、君には何の問題も無い。
 一般的には青い髪をしていて……目の色が独特だと、言われた事がある。何かの花に似ているものがあるとかも。」

回答は見た目通りに淡々としていた。それに色をつけるなら、灰色だとか腐った花の色だろう。この空間の不思議にも、男はさした反応が無かった。

icon
「悪魔と呼ばれる存在だと僕は僕を認識している。悪魔に良くある契約だとか、そういうのも経験があるから正しいのだと思うよ。
 魂を食べるとか言うのは、あまり趣味じゃないけれど。何かの代わりに何かを与えたりする──そういうものだ。」

悪魔、と言うにはどうも人間に近しい見た目の男は、足を組み直した。革靴が硬い床を叩き、こつんと良い音が響く。

それきり男は黙った。尋ねられた事に答えはするが、コミュニケーションをとろうという気は無かった。
男にとって他人は、“あの子”の魂を持ったもの以外は、大概そういった扱いを受ける。