Chapter01-01

記録者: 札川 栄治 (ENo. 185)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

クリックで開閉
あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


icon
「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

icon
「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

icon
「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

icon
「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

icon
「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

icon
「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

icon
「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


sample
icon
「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



icon
「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

icon
「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

icon
「…………。」

icon
「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
四方八方が白に包まれている。自分は何故ここに居るのだろう、またカイネが俺に何かしたのか。
……居心地が悪い。人間をやめさせられたあの日のことを思い出す。
ここまで何もないわけではなかったが、とても無機質な場所だったことに変わりない。

ただ無我に、そこにあった椅子へ座る。
目の前のカメラ頭に、それほど疑問は抱かなかった。
ヒトとサメは腐るほど見ているが、それ以外の生き物だって見たことがある。
外の世界にはそういうのも居るのだろう。
あるいは、所長辺りが作り出すなんてこともあるかもしれない。
少なくとも、人間を不死にする細胞があるくらいだ。機械人形オートマタだって存在しうるだろう。

icon
「…あ、えっと。ふ、札川と言います。札川 英治……
な、まえの、由来は…わからないです、俺にも」

何を言っても、どもる。あの日のトラウマが口の中を支配する。

大丈夫、これは多分俺を否定することも、肯定することも無いだろう。
少なくとも経過観察の記録に人格否定や𠮟責は必要ないはずだ。
そもそも、この機械が俺のことを理解するか否かに、それほど期待はしていない。

そう、自分に言い聞かせる。
でもどうやったって落ち着かない。この場所が怖い。
直ぐにでも助けてほしい。目が泳ぐ。どうして扉が無いんだ?どうやってここに連れてこられたんだ?
これは夢?それとも現実?いいや、現実なわけがない!
周りを見れば見るほど、冷たい汗が首を伝う。

……死にたくない。痛いのも出来れば避けたい。ならば、従わなければ。
従えば、ここから出してもらえるだろう。そうであってほしい。

icon
「あ、じ、G.S.A.S.って、御存じですか。俺の勤め先…大暴れするサメをぶっ飛ばしてるとこ、なんですけど。
俺そこで仕事してて、あ、はは、分からない、ですよね。すいません…」

口が滑らないよう、丁寧に、言葉を絞り出す。
少なくとも自分を自分たらしめるには、その二つがあれば十分だ。
それ以外不滅の身体のことは、まだ話す必要がない、はず。