
「む、むずかしいですね……」
自分で普段考えない様な事を何度も聞かれ続ける。
自己を知るという分にはいい機会だが、毎度毎度悩む羽目になりそうだ。

「譲れない事……そう、だなぁ……」
そのままだと答えきれないと判断したのか、少しだけ回答の方向性を変えて。

「少し趣旨とは外れるかもしませんが。……私は、大切なものに手を出されるのがすっごく嫌です。」

「もっと具体的に言えば、大切なものが脅かされること……か、な?

「そういう意味では、私の価値観。
譲れないもの、は。私の大切なもの、なのかもしれません。」
今の自分にとっての大切なものは日常だ。記憶を失って、過去を俯瞰でしか見れなくなった後で残った自分にとっての幸せ。
それを脅かされるのは、そういう意味では譲れないだろう……と。
記憶を失う前の自分の大切なものはなんだったのかと、口に出さず思索しながらそう締めくくった。