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「では観察対象。それを踏まえて、次の問いです」
シャッターは下りないまま、
ただピントを合わせるようなジジ、という小さな音だけが聴こえてくる。

「あなたの価値観を測ります。
──あなたにとって譲れないものは何ですか?
自由でしょうか、信頼でしょうか、愛情でしょうか、それとも秩序でしょうか 」

「その理由も含めて説明してください。
対象や状況が変わった時、
あなたの答えはどのように変化するでしょうか?」
──あなたは自らの価値観をどのように認識していますか?
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「譲れないもの、とひとえに考えても即座に思いつかぬ場合もあるでしょう。
自由、信頼、愛情、秩序、誇り、忠誠、知識……無数の選択肢が考えられます。」

「当機は観測を第一義として設計されています、
どのような思考をせど、必ず『観測』という目的を前提に持ちます。
これは精神的価値としての『誇り』や『忠誠』とは異なります。
しかし、機能としての観測が揺るぎ得ない前提であるという点では、
それらに類する不変性を持つと言えるでしょう」

「思考の前提、当然と感じている事、
それこそ、先の思考を組み立てる際に自らが重視したものを改めて噛み砕くと良いのやも知れません」

「回答は単一である必要はありません。
譲れない価値の間で揺れる感情や葛藤も、重要な要素です。
必要に応じて検討を続けてください」
Answer
「ゆずれないもの・・・」
「穏やかな日常、かな」
「まわりのみんなにはいつもと同じように笑っていてほしいし、消えないでほしい」
「私が見えることなんて一部の表面的な穏やかさだけだろうけど」
「それが目の前で壊れるのは、壊れるのを見るのは、できない」
「それはきっと、誰かを思う気持ちじゃなくて、自分のためなんだろうけど」
自嘲気味にふっと笑いながら言った。
眼は相手を見ていなかった。ただ手を見下ろしていた。
「自分の愚かな行いで大事なものが壊れるのが嫌なんだ。」
「日常っていうと主語が大きいね。えっと、まぁ、
・・・話してくれるひととか、そのひとたちがいる場所とかってこと。」
「わたしはほとんど関われてないけど、遠くからで十分だから。」
「深く知るのは怖いから。」
「でも、大事だなって思ってて」
「よくわかんないや。壊れないでほしいのは自分のためで、
もし壊れてしまうのならそれを止めたいし、
何が何でも止めようとしちゃうだろうなって思う。
そのくせ自分がむやみに触れることで何かが起こってしまうのも怖い。
私の気持ちもここに在って、相手の気持ちも見えないけど在るから。」
「ははっ、何も変わってないね。昔と」
「まぁ、とにかく、まわりがいつも平和だといいなーって勝手に思ってるよ」
「そんな感じ」
へらっと笑った。