Chapter01-03

記録者: 白埜シンフゥ (ENo. 130)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「“彼”ってこたァ男かいな」

呟き、直後、ジリッと太腿に走る痺れ。

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(……なんぞ?)

すぐさま過ぎ去ったそれは、もはや名残も感じさせない。裾でもまくって確かめればよいが、“観察”されている状況でそれはどうもためらわれた。
些事を脇に置いて、答えに戻る。


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「状況による……は味気ないのぉ」

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「わしの損害によるね。手足の一本程度なら吹っ飛んでもええが、命取られるまではやっとれんなァ」

半鬼であるシラノは“気”が扱える。
条件さえ整えば、身体の7割が損壊しても自力で治せるという便利な術だ。痛みが消えるわけではないが、一刻の不快が一生の後悔になるよりはマシだろう。

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「金関係は助けてやれんぞ。わし、基本は文無しじゃけ」

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「ほうじゃな、あとは相手にもよるか……。助けてもろて当然、みたいな連中は避けたいの」

縁ほど恐ろしいものはない。
良縁は己が身を強くするが、蜘蛛の糸よろしく、縁を縁が引きちぎることも世にはままある。
シラノは澱みかけた思考を、無理やり笑顔で振り払った。

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「あとはまァ、助けた礼になんかしてもらえると助かるの。わしに血ィ寄こすなり、馴染みの劇団に参加するなり」

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「劇団の話は……『ハツカネズミがやってきた』。また今度」