
「“彼”ってこたァ男かいな」
呟き、直後、ジリッと太腿に走る痺れ。

(……なんぞ?)
すぐさま過ぎ去ったそれは、もはや名残も感じさせない。裾でもまくって確かめればよいが、“観察”されている状況でそれはどうもためらわれた。
些事を脇に置いて、答えに戻る。

「状況による……は味気ないのぉ」

「わしの損害によるね。手足の一本程度なら吹っ飛んでもええが、命取られるまではやっとれんなァ」
半鬼であるシラノは“気”が扱える。
条件さえ整えば、身体の7割が損壊しても自力で治せるという便利な術だ。痛みが消えるわけではないが、一刻の不快が一生の後悔になるよりはマシだろう。

「金関係は助けてやれんぞ。わし、基本は文無しじゃけ」

「ほうじゃな、あとは相手にもよるか……。助けてもろて当然、みたいな連中は避けたいの」
縁ほど恐ろしいものはない。
良縁は己が身を強くするが、蜘蛛の糸よろしく、縁を縁が引きちぎることも世にはままある。
シラノは澱みかけた思考を、無理やり笑顔で振り払った。

「あとはまァ、助けた礼になんかしてもらえると助かるの。わしに血ィ寄こすなり、馴染みの劇団に参加するなり」

「劇団の話は……『ハツカネズミがやってきた』。また今度」