Chapter01-02

記録者: 白埜シンフゥ (ENo. 130)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

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シラノは頷く。
答える義理はなく、一方通行であるならともすれば、答える意味すらない。それでも己が目的を遂行する対面。
と、すれば。

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(バカ真面目な奴じゃなァ)

カメラ男――オブザーバーと名乗った彼を、シラノはそう評価する。そして。

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(こういう奴、わし好きじゃね)

目的が明確な者は良い。スポットライトを自ら生み出し己に照射できる、活力がある。
――――好ましい。

シラノはむしろ自分が観劇するかのように柔らかな目つきでもって、言葉を練っていく。

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「……食うもんと食われるもんがおんなじとこで生活しとる世界におっての」

嵐の目に居て嵐は観測できない。
ゆえに、シラノはまず己を取り巻く社会から語る。

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「殺されんように、殺さんように、がんばる。ほんで、殺し殺されが意識に入らんくらいのんびり暮らせるようになる。それが普通」

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「であってほしい感じじゃなァ」

あいにくと、シラノの語る普通はさほど叶った試しがない。なぜならば、シラノは外れ値に位置する自覚があるからだ。

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「食うもんが、
 食われるもんが、人間
 鬼は血ィ吸うもんが多いけ、吸血鬼、言われることが多いか」

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「んでまあ、わしがややこしゅうて……。
半分人間で、半分鬼なんじゃよなァ」

ふう、とため息を吐く。
重なる部分があるゆえに、より排斥される根無し草。普通とは何か、などという問いには、シラノ自身が毎度困らされているのだ。

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「“普通”は……」

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「いきなりこんなヘンテコなとこにゃ、飛ばされんわな」