
「ねえ──じゃあさ」
ぱちん。
少年が指を鳴らす。
軽快なくせに、不思議と胸の奥をざらつかせる音がした。

「“正しい”があるなら……“悪い”って、なんだと思う?」

「君の思う“悪さ”ってさ。どういう形をしてる?
……悪い人って、どうして悪い事をすると思う?」
その声は明るいのに、奥底に沈むものは冷たく澄んでいる。
冗談みたいな口ぶりなのに──その実、返答を逃す隙を与えないほど見つめていた。
──あなたは、何をもって“悪い”と判断しますか?
sample

「僕が新しい曲を吹こうとするとね、
止めようとする人がいるんだ。すっごく真面目な顔してさ」
笛に指を当て、吹く真似をして。
けれども笛を通して音を出す事はしないで、
また手持ち無沙汰のように笛を手でいじる。

「親も、偉そうな大人も、見回りの憲兵も、
神様の言うことばっかり唱える聖職者もね。
彼らはそれを“正しいこと”だって僕に言うんだよ。
でもさ、僕の新しい音を止めるんだよ? それってさ──」
そうして。歌う様な声で嗤った。

「〝悪い〟ってことじゃない?」
──だって僕の方が正しいのだから!
……少年はあなたを見ている。