ぱちん。
境界の向こうで、少年の指が軽やかに鳴った。
その仕草は冗談めいて軽いのに──
そこから発される言葉は、胸の奥をざらつかせるような鋭さを含んでいた。

「じゃあ、“正しい”があるのなら。“悪いこと”って、なんだと思う?」
問いかけのトーンは軽快。けれど、その瞳は──
風の妖精のように自由でいて、
同時に“絶対に返答を逃すものか”という緊張を孕んでいる。
音を聴く者の目。
旋律の乱れを許さない、真剣な観察者の目だった。
フェルヴァリオは、手の中の素材をグリグリと乱暴に砕いた。
思考の乱れがそのまま力に現れている。

「えっー……うん、じゃあ……」
言葉を探し、砕く音だけが部屋に満ちた。

「竜が絶対的に正しいなら──
竜を殺すこと? 食べること?」
そこで一度、手が止まる。

「……ちょっと待って、人間のことよくわからない。」
素直な困惑がそのまま声になる。
フェルヴァリオは、眉間に皺を寄せながら少年を見た。

「人間にとっては……
お前たちを錬金術の素材にすること、食べること……
それは、とても悪いことじゃない?」
問い返すのではなく、“確かめるような”声音。
自分が竜であることを軸にしつつも、
相手の価値観を探るように手探りで言葉を置いていく。
その瞬間──少年の足の揺れがふっと止まった。
まるでフェルヴァリオの一言が、
彼の中の楽譜に“新しい音”として刻まれたかのように。
風のような軽さの奥に、ゆっくりと重みが満ちていく。