Chapter02-05

記録者: フェルヴァリオ (ENo. 64)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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「ねえ──じゃあさ」

ぱちん。
少年が指を鳴らす。
軽快なくせに、不思議と胸の奥をざらつかせる音がした。

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「“正しい”があるなら……“悪い”って、なんだと思う?

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「君の思う“悪さ”ってさ。どういう形をしてる?
 ……悪い人って、どうして悪い事をすると思う?」

その声は明るいのに、奥底に沈むものは冷たく澄んでいる。
冗談みたいな口ぶりなのに──その実、返答を逃す隙を与えないほど見つめていた。

──あなたは、何をもって“悪い”と判断しますか?


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「僕が新しい曲を吹こうとするとね、
 止めようとする人がいるんだ。すっごく真面目な顔してさ」

笛に指を当て、吹く真似をして。
けれども笛を通して音を出す事はしないで、
また手持ち無沙汰のように笛を手でいじる。

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「親も、偉そうな大人も、見回りの憲兵も、
 神様の言うことばっかり唱える聖職者もね。

 彼らはそれを“正しいこと”だって僕に言うんだよ。
 でもさ、僕の新しい音を止めるんだよ? それってさ──」

そうして。歌う様な声で嗤った。

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〝悪い〟ってことじゃない?

      ──だって僕の方が正しいのだから!

……少年はあなたを見ている。
Answer
ぱちん。

境界の向こうで、少年の指が軽やかに鳴った。
その仕草は冗談めいて軽いのに──
そこから発される言葉は、胸の奥をざらつかせるような鋭さを含んでいた。

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「じゃあ、“正しい”があるのなら。“悪いこと”って、なんだと思う?」

問いかけのトーンは軽快。けれど、その瞳は──
風の妖精のように自由でいて、
同時に“絶対に返答を逃すものか”という緊張を孕んでいる。

音を聴く者の目。
旋律の乱れを許さない、真剣な観察者の目だった。

フェルヴァリオは、手の中の素材をグリグリと乱暴に砕いた。
思考の乱れがそのまま力に現れている。

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「えっー……うん、じゃあ……」

言葉を探し、砕く音だけが部屋に満ちた。

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「竜が絶対的に正しいなら──
 竜を殺すこと? 食べること?」

そこで一度、手が止まる。

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「……ちょっと待って、人間のことよくわからない。」

素直な困惑がそのまま声になる。
フェルヴァリオは、眉間に皺を寄せながら少年を見た。

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「人間にとっては……
 お前たちを錬金術の素材にすること、食べること……
 それは、とても悪いことじゃない?」

問い返すのではなく、“確かめるような”声音。

自分が竜であることを軸にしつつも、
相手の価値観を探るように手探りで言葉を置いていく。

その瞬間──少年の足の揺れがふっと止まった。

まるでフェルヴァリオの一言が、
彼の中の楽譜に“新しい音”として刻まれたかのように。

風のような軽さの奥に、ゆっくりと重みが満ちていく。