境界の向こうの少年は、またごく自然に問いを“転調”させた。
軽い声音のまま、しかし瞳だけがひどく鋭い。

「君に訊きたいんだ。
僕ってさ──いつも思うんだ。“正しいこと”って何なんだろうって?」
足をぶらぶら揺らすリズムは軽快なのに、
その揺れの奥で──確かに“答えを探す気配”がある。
期待とも、観察ともつかない、細い刃のような緊張感。
フェルヴァリオは、今度はモンスター素材の袋を開き、
ゴリッ……と硬い音を立てながら爪か鱗を砕き始めた。
まるで答えを探すため、手だけは必死に動かしているように。

「……魔法がある世界では、竜の言葉が絶対的に正しい。」
ぽつりと呟いた瞬間──
フェルヴァリオの唇が、わずかに“唱えた”。
それは声にならない呪式。
だが、確かに空気が揺れた。
ぼうっ。
フェルヴァリオの背後に、焔の竜の幻影が立ち上がる。
巨大で、灼熱で、支配的な“存在”。
ほんの一瞬で消えたが、
境界の向こうの少年の瞳は、しっかりとその形を見ていた。
フェルヴァリオは、火の気配が残る手元を見つめながら続けた。

「……うーん、難しい。」
爪を砕く音だけが、乾いたリズムで響く。

「自分たちが正しいとは、全く思えない。」
淡々とした言葉の中に、
さっき背後に現れた竜の威圧とは別種の“弱音”が混ざる。

「でも、オレは……
錬金術を通しては、正しいことも間違ったこともしていないと思う。」
その声は、曖昧で、でもどこか芯があった。
“自分という個”ではなく、
“自分が行っている行為”に価値を置くような言い方。
境界の向こうの少年は、
足の揺れを止め、
静かにフェルヴァリオを見つめていた。
まるで、いまの答えを──
旋律として耳の奥に刻むように。