カメラは突然、寸分の揺らぎもない電子音で告げた。

「あなたが何者であるか──その定義は、あなた自身が決めるものです。
当機はただ、それを観測したという事実のみを残します」

「……観察対象。これにて接続を断ちます」
その瞬間、白い部屋の空気がふっと軽くなる。
だが、次の瞬間にはその軽さが妙な静寂に変わった。
レンズは光を失ったように沈黙し、もう問いかける気配は一切ない。
フェルヴァリオは、まるでそんなことは最初から想定していたかのように、
淡々と作業へ戻った。
細長い短冊の紙──試薬紙を取り出し、
スポイトで先ほど完成したばかりの液体を一滴落とす。
ぽたり。
変色は……ない。
フェルヴァリオは、無表情で小さくうなずく。

「よし。」
次の工程。
紙を火で軽く炙る。
焦げ跡ひとつ出ないことを確認する。
続けて、白い部屋の天井から射す光に紙をさらし、
わずかな変化も見逃さないよう目を細める。
さらに電撃。
軽く指を鳴らすと、ぱち、と小さな雷が試薬紙へ走る。
紙の端がわずかに震えるだけで、変質はなし。
フェルヴァリオは短冊に書かれたチェック欄へ
静かにひとつずつ、ペンで チェック を入れていった。

「うん、合格。」
そう呟くと、小瓶を手に取る。
調合品を“キュポン”という澄んだ音で詰め込み、丁寧にラベルを書き、封をする。
ラベルの字は驚くほど美しい。
淡々としているくせに、こういうところは几帳面だ。
もうカメラは何も言わない。
ただ、白い部屋とフェルヴァリオの手元だけが静かに動いている。
それは、誰も知らない、けれど確かに日々重ねてきた──
なんでもない錬金術師の“仕事の音”だった。