Chapter02-05

記録者: 薄場心檻 (ENo. 146)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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「ねえ──じゃあさ」

ぱちん。
少年が指を鳴らす。
軽快なくせに、不思議と胸の奥をざらつかせる音がした。

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「“正しい”があるなら……“悪い”って、なんだと思う?

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「君の思う“悪さ”ってさ。どういう形をしてる?
 ……悪い人って、どうして悪い事をすると思う?」

その声は明るいのに、奥底に沈むものは冷たく澄んでいる。
冗談みたいな口ぶりなのに──その実、返答を逃す隙を与えないほど見つめていた。

──あなたは、何をもって“悪い”と判断しますか?


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「僕が新しい曲を吹こうとするとね、
 止めようとする人がいるんだ。すっごく真面目な顔してさ」

笛に指を当て、吹く真似をして。
けれども笛を通して音を出す事はしないで、
また手持ち無沙汰のように笛を手でいじる。

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「親も、偉そうな大人も、見回りの憲兵も、
 神様の言うことばっかり唱える聖職者もね。

 彼らはそれを“正しいこと”だって僕に言うんだよ。
 でもさ、僕の新しい音を止めるんだよ? それってさ──」

そうして。歌う様な声で嗤った。

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〝悪い〟ってことじゃない?

      ──だって僕の方が正しいのだから!

……少年はあなたを見ている。
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「また先回りしちゃった。でもこれは今君と話してて思いついたことなんだよね。」

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「正しいことがあるから悪い事があるんだと思うよ。キミが正しいからキミを止める人は悪いってことになるんでしょ?」

嗤う少年にニヤリと笑い返し、しかし次の瞬間肩をすくめて視線を外す。

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「なんて、それもちょっと変だけどね。どっちかが正しくてどっちかが悪いときもあると思うし。例えばオレオレ詐欺みたいな、正しい人がいるわけじゃなくて、悪いことしようとして悪いことする人だっているもんね。」

外した視線を床に向けて、スッと目を細めて考えている。

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「うーん、なんだろ、悪いのかたち。」

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「ぱっと言うと自分が良ければ良い~、な感じだけど、他の人に迷惑かけてないならなんか別にいいよね、って気もするね。」

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「キミの言う人たちの悪いところは『自分とおんなじになれ~』って押し付けてくるのが悪いって感じする。でもキミだって『僕の方が正しい』って言うのはそれと同じじゃん?」

伸びをしながらイスにもたれかかり、再び少年の方を鋭く見やってニンマリと嗤う。

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「まぁ、うちが言うなら、誰かに意地悪するのが悪いって感じかな~。うん、そう思うな。」

すとんと腹落ちするものがあったらしい。ニシシ、と少し意地悪そうに笑った。