Chapter01-01

記録者: 薄場心檻 (ENo. 146)
Version: 2 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
目が眩む白に瞬いて、キョロキョロと辺りを見回す。
いつも一緒のはずの妹の気配が無く、首を傾げてぽつりと呼びかける。

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「街ちゃん…?」

それに応える存在はない。椅子以外何も見当たらない部屋の中をそれでもすこし探し回るようにうろついた後、他にすることもなく椅子に座り込む。
その時、正面に現れた気配と音にハッと顔を上げる。

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「え、カメラ人間…?」

正面に座っている、そのような存在に目を丸くして立ち上がるとふっとその姿が消える。
あれ、とつぶやき再び腰を下ろすと、正面にカメラ頭の姿が現れる。
そういう物らしいと理解して、腰を下ろしたままそれを見つめる。
レンズが真っ直ぐこちらを向いているのを見つめ返していた時、突然男性的な声をかけられて少しビクリと震える。

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「え、あなた、しゃべれるの?」

ぱちくりと瞬きしながらそれの話すことを聞き、

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「あなたもここの事とか、なんでここにいるかわからないってこと?」

と首を傾げる。続いた問いかけに、少し逡巡するだろう。

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「知らない人に名前を教えたりしちゃいけないって言われてるからなぁ…」

それを聞いたからなのか、カメラ男が自己紹介を始めれば、連なる横文字の羅列に少し目を白黒させながら聞いているだろう。

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「えーぶいえーしりーず…? ちょーきにんむ? オートマタ?」

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「え、うちめっちゃ夢見てる?」

ふと、これが夢ではないかと思い至る。不思議な空間に不思議な話し相手、離れるはずのない半身の不在、夢にしては明晰すぎる気もするが、それなら諸々の不思議に納得がいく。 

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「うーん、夢なら別にいいのかな。うちは薄場心檻って言うんだ。よろしくね、キューさん」

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「β09さんだからキューさん、それが呼びやすそうだなって。良いでしょ?」