Chapter01-01

記録者: 白埜シンフゥ (ENo. 130)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-30 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
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参ったのぉ。
わし、名前ぎょうさんあるんじゃが。


第一声は、戸惑いだった。

暗幕、いや、
白幕が開けたかのように現れた舞台装置に対してでもなく。
頭部をして撮影機の彼(?)に対してでもなく。
硬質で噛み砕きづらい言い回しに対してでもなく。

どう答えたものか、と戸惑う。

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そっちの言語に合わせ……
んにゃ、何ぞおまえさん言語どころか、
住む世界違うんよなァ多分。きっと。メイビー。

雑な言葉を投げかけ、選ぶ時間を稼ぎ、しばし。

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名前は、白埜シラノシンフゥ。

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作家業をしとるもんで……
直近の名前がこれじゃ。
ペンネーム、って聞いたことあるかいな。

返ってくるのは無機質な機械音。
どうやら宣言通り、相手は観察に徹しているらしい。
シラノはゆるゆると自分語りを続ける。

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あァ、本名はご勘弁。
覚えとらん。

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歳が150を超えてくると物覚えも悪くてのぉ。
あァ、おまえさんと比べたらどうじゃろ。
わしのが下か?

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ま、年功序列もこれまたご勘弁。



手持ち無沙汰にシラノは襟元を弄る。
茶が飲みたい。
話し始めたばかり、別に喉が渇いているわけでもないが、
ただ、間が持たない。

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(飲むなら茶よりも血じゃが……)

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(助かった。
 相手が機械式人形コレなら飲まずに済む。)


手足が人間と近しくあろうと、頭部が異なればそれは別種だろう。人と見た目の変わらないシラノ自身すらも別種なのだから、なおさらだ。
何より、対面からはシラノが普段感知する“気”が一切ない。となれば、万が一噛みついたところで、得られるものもまた無であると思われた。

シラノは平和主義である。
しかしながら、空腹極まればつまみ食いをしたくなる程度には、俗世の者なのだった。